あらゆるモノが充足し、飽和状態になりつつある市場で企業が生き残り続けるためには、競合との差別化を図りながらビジネスを展開する必要があります。しかし、すでに多種多様な企業が市場に参入していることから、有利なポジションを獲得するのは簡単ではありません。

競合との競争を有利に進め、集客数や売上を伸ばすためには「競争優位性」を意識したビジネス展開をすることが大切です。今回は、競争優位性の構築に効果的な戦略や、競争優位性の分析方法について詳しく説明します。

そもそも競争優位性とは?

そもそも競争優位性とは、他社と自社を比較したときにビジネスにおいて有利になっている状況のことです。

たとえば、ラーメンを提供している店舗には、ラーメン専門店だけでなくショッピングモールのフードコートやレストラン、中華料理店などがあります。そのような状況の中でラーメン店として生き残り続けるためには、競合とは違った特長を活かして顧客を獲得し続けなければなりません。

競争優位性を見出せない店舗になると、顧客が他店に流れて売上を維持できなくなるので、なるべく早い段階で他社とは違った独自性を持ち、顧客を獲得しておくことが大切です。

競争優位性の構築に効果的な戦略とは?

では、企業や店舗に競争優位性を持たせるにはどうすればよいのでしょうか。競争優位性の構築に効果的な戦略として、次の3つが挙げられます。

競争優位性の構築に効果的な戦略
  • コストリーダーシップ戦略
  • 差別化戦略
  • 集中戦略(ニッチ戦略)

以下では、これらの戦略について詳しく説明します。

コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略は、事業運営に必要な原材料費や管理費、流通費や販売費といった経済的なコストを抑えることで、他社より有利な状況を獲得し、市場において有利なポジションを構築する戦略です。事業運営にかかるコストを抑えればそれだけ商品やサービスを安価に提供できるため、顧客を多く獲得するとともにシェア率を高めやすくなります。

しかし、コストリーダーシップ戦略をとる企業が複数になると、価格競争に陥るため事業運営に余裕を持ちにくくなるので注意が必要です。とはいえ、市場において競争優位性を獲得するためには、まず顧客のシェアを獲得しなければなりません。そのため、まず業務の効率化や商品の大量生産といった基本的な戦略に取り組んで価格優位性を持たせるのが一般的です。

企業が提供する商品やサービスの価格優位性に影響を与える要因として、次の2つがあります。

  • 商品を生産する規模
  • 経験の累積

以下では、価格優位性に影響を与える2つの要因について詳しく説明します。

商品を生産する規模

商品を生産する規模を大きくすると、競合との価格優位性を持たせやすくなります。

上の図のように、人件費や家賃、光熱水費といった、生産規模にかかわらず発生する「固定費」が一定の企業の場合、商品を製造する量が増えるほど、原材料費や販売手数料などの「変動費」は増えるものの、商品1個あたりの製造費用は安くなります。

たとえば、ワクチンを製造する企業の場合、生産規模を広げるほどワクチン1つあたりの製造コストが安くなります。商品1つあたりの価格を抑えられれば顧客のシェアを獲得しやすくなるので、売上を伸ばすことにつながります。

経験の累積

生産規模が限られていても、商品を製造開始してからの累積生産量が増えれば、商品を生産する作業に慣れてくることから、1個生産するのにかかるコストが安くなります。

これは「経験効果」とも呼ばれており、累積生産量が2倍になるごとにトータルコストが20~30%安くなるといわれています。また、製造に関する専門的な知識・技術の向上や新しい生産工程の導入といったことも、生産コストを抑える要因だと考えられています。

特に、人間の手で生産しなければならないものが該当しやすく、たとえば、家具やファッションアイテムなどの製造において、マンパワーが必要でかつ大量生産されるものが該当します。

差別化戦略

差別化戦略とは、自社の事業運営方針や商品・サービスに独立性を持たせ、他社とは違った価値を顧客に提供する方法です。

「競合との差別化を図るには、他社とかぶらない商品やサービスを開発すればよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、どれだけ他社と違った商品やサービスを開発しても、それらに価値を感じてもらえなければ売上は伸ばせないでしょう。

差別化戦略で重要なポイントは、次の4つです。

差別化戦略で重要なポイント
  • 商品やサービスの改善
  • 立地で差別化を図る
  • 利便性が高い販売チャネルを考える
  • ブランド力を高める

以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。

商品やサービスの改善

たとえ他社と同じ商品・サービスであっても、さまざまな視点で改良することで独自性を持たせることは可能です。具体的な改善点として、次の4つが考えられます。

  • 機能・性能
  • デザイン
  • 製品ラインナップ
  • アフターサービス

シェーバーを開発・販売する企業では「他社よりも使用後に肌荒れしにくい」といった性能を持たせることで独自性を持たせることが可能です。有名デザイナーとコラボレーションして商品をデザインすれば、より消費者に魅力を感じてもらえるでしょう。

顧客の声を取り入れながら「肌荒れしやすい人向けのシェーバー」「毛量が多い人向けのシェーバー」「毛が太い人向けのシェーバー」のように多様な製品ラインナップを用意すれば、消費者の多様なニーズに対応するとともにシェアを広げやすくなります。

「トラブル発生時は24時間チャットボットで対応」「定期的に替刃を配送するサービス」といったアフターサービスを設ければ、商品を長く使ってもらえるかもしれません。

立地で差別化を図る

店舗型のビジネスをおこなう企業の場合、立地で差別化を図るのも方法のひとつです。

たとえば、小売店やサービス業であれば、オフィス街や駅構内のショッピングセンターのようにアクセスしやすい場所に店舗を構えれば、それだけで多くの人に店舗を利用してもらえるでしょう。隠れ家的なレストランを経営するのであれば、閑静な住宅街や市街地から少し離れた場所に店舗を構えることで特別感を出すことが可能です。

家電製品や電子部品、キャラクターグッズなどを販売したければ、秋葉原のような特定業種が集まるエリアに出店することで、特定のニーズを持った消費者を多く呼び込めます。カー用品を扱う店舗であれば、車通りの多い国道沿いに出店することで店舗に足を運んでもらいやすくなるでしょう。

利便性が高い販売チャネルを考える

他社との差別化を図るには、アクセスのよさも大切ですが「どのような方法で手に入れられるか」という販売チャネルを考えることも大切です。

たとえば、食料品や生活用品などは、なるべく生活圏に近いところで販売したほうがよいでしょう。インスタントラーメンを販売している企業であれば、スーパーだけでなくコンビニやドラッグストアにも商品をおくことで、多くの消費者にとってもらえるでしょう。また、「〇〇県限定販売品」のように希少性を持たせる商品を販売するのであれば、そのエリアだけに流通させるよう配慮しなければなりません。

ブランド力を高める

商品やサービスの独自性、立地や販売チャネルを工夫しても、消費者の信頼性を高めたり安心感を持ってもらえなければ、売上を伸ばすことはできません。そのため、競合が多い市場の中で消費者に選ばれる企業になるためには、ブランド力を高めるのも大切です。

ブランドというと企業ブランドをイメージする人が多いかもしれません。しかし、ブランドには事業ブランドや商品ブランドなど、さまざまな種類があります。たとえば、高級ファッションブランドを扱う企業のように、企業のブランド力を高めれば、おのずと提供する商品やサービス全体のブランド力を高められるので、市場で有利なポジションを確立しやすくなります。

また、1つの企業で「焼き肉店とカラオケ店のように、複数の事業を運営している場合は、事業ごとにブランドを持たせれば、「焼肉店であれば〇〇」「カラオケ店であれば〇〇」のようなイメージを消費者に持ってもらえます。

企業がシェーバーや液晶テレビなど複数の商品を扱っていれば、商品ごとにブランド力を高めることで「シェーバーなら〇〇社の製品」「液晶テレビなら〇〇社の製品」のようにニーズを持ったと同時に商品をイメージしてもらえるでしょう。

集中戦略(ニッチ戦略)

ニッチ戦略や特化型戦略とも呼ばれる集中戦略は、市場の中でも特定のターゲットに絞ってアプローチする手法です

流通チャネルを絞る方法も集中戦略に該当し、商品やサービスの開発や広告宣伝にかけるコストを抑えつつ独自性を持たせられるというメリットがあります。

たとえば「40代女性にターゲットを絞って化粧水を販売する」「〇〇町に住む健康志向の人に向けて店舗でラーメンを販売する」といった戦略が挙げられます。特定の市場にターゲットを絞るため差別化を図りやすいですが、目標とする売上を出し続けるためには、市場のニーズを入念に調査しておくことが大切です。

なお、集中戦略は先に紹介したコストリーダーシップ戦略・差別化戦略と組み合わせて「コスト集中」「差別化集中」の2つに分類することができます。

コスト集中 差別化集中
特定のターゲットやチャネルに対して、低価格で製品・サービスを展開し競争優位性を高める 特定のターゲットやチャネルを設定し、製品・サービスの差別化をすることで競争優位性を高める

競争優位性の分析に適したフレームワークとは?

ここまでは、競争優位性を構築させる手法について説明しました。どれだけ納得のいく戦略を立案できても、客観的に企業が他社より有利な状況になっているかを把握できなければ、多くのシェアを獲得できなくなってしまいます。

競争優位性の分析に適したフレームワークとして、3つの分析手法があります。

競争優位性の分析に適したフレームワーク
  • ファイブフォース分析
  • バリューチェーン分析
  • VRIO分析

それぞれのフレームワークについて紹介していきます。

ファイブフォース分析


ファイブフォース分析とは、他者と競争している要素を分析し、市場の変化予測とあわせて経営戦略を立てるフレームワークです。「フォース」は「脅威」の意味で、自社を取り巻く環境における脅威を以下の5つの観点で分析します。

  • 買い手の交渉力
  • 売り手の交渉力
  • 業界内競争
  • 新規参入の脅威
  • 代替品の脅威

これら5つは経営をするうえで欠かせない要素であり、自社にとって脅威や障害となるであろう要因を見つけ出せれば、経営戦略に繋げることができます。

ファイブフォース分析について詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみてください。

ファイブフォース分析に含まれる要素とは?具体例を交えて紹介

バリューチェーン分析


バリューチェーン分析は、企業の事業活動の各セクションを可視化し、付加価値を見出すためのフレームワークです。

企業は顧客に製品・サービスを提供するうえでさまざまな活動を行います。これらの活動の中で、生産から消費までの流れに関わる「購買物流・製造・出荷物流・販売・マーケティング・サービス」といった工程を「主活動」、それらの流れに直接関与しない「人事・労務管理・技術開発・調達」などを「支援活動」に分類して考えます。

自社の事業活動全体の構造を、このように項目を分けて段階的に整理することで、どの活動がどのような関係性を持って利益につながっているかを明確にできます。

VRIO分析


VRIO分析では、次の4つの観点で企業の競争優位性を分析します。

  • Value(経済価値)
  • Ririty(希少性)
  • Inimitability(模倣困難性)
  • Organization(組織)

Valueでは、組織や顧客、社会全体にどれだけの利益をもたらしているかを考えます。

Rirityは市場における希少性で、希少性が高いほど後発企業の参入を防いだり、市場でのシェアを獲得しやすくなったりします。

Inimitabilityは、他社が真似できない自社の強みのことをいい、事業の持続性を長期化させたり、市場のシェアを多く獲得したりすることにつながります。

Organizationは、自社がValue、Ririty、Inimitabilityを把握しており、競争を有利に進める組織作りができているかどうかです。

たとえば、「自社のITツールはユーザー数が100万人を超えている(Value)。AIでのデータ分析機能も搭載しており(Ririty)、他社にはない機能を設けている(Inimitability)。しかし、IT人材が不足しており、システムを将来的に維持できるか分からない状況である(Organization)」といった分析ができます。

VRIO分析の結果から考えられる競争優位性


VRIO分析をしたら、その結果をもとに自社の競争優位性を考えます。すべてが他社より有利な状態になっていれば、長期的な売上に繋がります。しかし、多くの場合、分析の結果、何らかの課題が見つかるはずです。

経済価値(Value)が不足しているのであれば、企業が持つ強みと消費者のニーズがズレていたり、魅力が消費者にうまく伝わっていない可能性があります。

アンケート調査やヒアリングなどで消費者のニーズを再確認し、ニーズがあれば顧客にツールの魅力が伝わるマーケティング手法を再考しなければなりません。

希少性(Ririty)が不足していれば、「〇〇店でしか手に入らない商品を展開する」「希少性の高い素材を使った新商品を開発する」といった戦略が考えられます。

模倣困難性(Inimitability)が不足していれば、「次の商品を開発する際は、自社ならではの強みである、高度な分析機能を導入したITツールを発売する」「有名デザイナーとコラボレーションしてファッションアイテムを開発する」といった戦略が立案できます。

組織(Organization)が不足していれば、「従業員全体で、自社の市場における立ち位置や今後の経営方針について認識を共有する機会を設ける」「人・モノ・カネの経営資源を最適化させ、優先順位を考えた予算配分をする」などの手法を検討できるでしょう。

まとめ

ここでは、競争優位性の概要や市場で有利なポジションを確立する方法、競争優位性を分析する方法について説明しました。

ここで説明した内容を参考にして、市場で有利なビジネス展開をしましょう。

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