モノや情報が溢れ、消費者のニーズが多様化した市場の中でうまく利益を残すためには、自社はもちろんのこと、競合の事業分析もおこなうことで、課題や優位性を見出して戦略に活かす必要があります。企業内外の状況を分析するフレームワークはたくさんありますが、代表的なものとして「バリューチェーン」が挙げられます。

しかし、「バリューチェーンがどのようなフレームワークなのか知らない」「バリューチェーンを活用するとどのようなメリットがあるのだろう」と思う人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、バリューチェーンに焦点を当てて、フレームワークの概要やメリット、分析の手順について詳しく説明します。

そもそもバリューチェーンとは?

そもそもバリューチェーンとは、事業を営む際に必要な活動を「個々の集合体」としてとらえるのではなく「価値の連鎖」として考える概念です。日本語では「価値連鎖」と呼ばれることもあります。

バリューチェーンの2つの構成要素

そんなバリューチェーンは、上の図のように「主活動」と「支援活動」の2つから成り立っています。以下では、バリューチェーンの構成要素について詳しく説明します。

主活動

バリューチェーンにおける主活動には、「食材の仕入れ」「製造・加工」「出荷」「マーケティング・販売」「アフターサービスの提供」といったものが含まれます。

業種によっては、独自で生産した食材を使用する飲食店のように仕入れがなかったり、製造した商品をその場で販売するため出荷という工程が含まれなかったりします。

バリューチェーン分析をする際は、自社の事業がどのような工程で成り立っているか区別し、それぞれの活動ごとに強みや弱みを見つけて戦略に活かすことが大切です。

支援活動

一方、支援活動には「業務の管理」や「人事・労務」、「技術開発」や「調達」といった支援活動が含まれます。

「製造では人材不足が深刻化しているため、必要な商品数を出荷できずにいる」「購入後一定期間経過してから関連商品を提案したら、次の購入につなげやすくなる」といったことが分かれば、「人材確保に力を入れる」「アフターサービスを自動化するツールを導入して、一部の従業員を製造業務に回す」といった戦略につなげられるでしょう。

このように、支援活動が各主活動においてどれくらい価値を創出しているのかを考えることで、最終的な利益を高める戦略立案につなげやすくなります。

マイケル・ポーター氏が提唱した概念

そんな「バリューチェーン」という概念を最初に提唱したのは、アメリカの経済学者でハーバード大学経営大学院の教授でもあるマイケル・ポーター氏です。

マイケル・ポーター氏は、1985年に「競争優位の戦略(Competitive Advantage)」という書籍を出版しており、この本の中で「バリューチェーン」という言葉を使ったのが起源となっています。

参考:バリュー・チェーンとは?意味やメリット、分析方法、事例まで徹底解説

バリューチェーンとサプライチェーンとの違いとは?

バリューチェーンと似た言葉に、「サプライチェーン」があります。どちらも「連鎖する」という概念を含んでいるので混同しがちですが、両者の違いを知っておくことは大切です。

サプライチェーンは、日本語で「供給連鎖」と呼ばれる言葉です。

製品や食材などの原材料の確保や製造、加工や販売といった一連の流れのことを指します。事業運営に含まれる一連の活動を連鎖するものと認識する点では、バリューチェーンと大きな違いがないように思えるかもしれません。

しかし、サプライチェーンではモノやお金の流れを重視して考えるという特徴があります。

また、サプライチェーンでは、一連の流れをそれぞれの活動に携わる事業所全体で共有します。改善策を練る際は、部分的な活動に焦点を当てて改善させるのではなく、全体のバランスを見て最適化させます。

このように、サプライチェーンとバリューチェーンでは、分析の目的やアプローチする範囲に違いがあります。

バリューチェーン分析をおこなうメリットとは?

ここまでは、バリューチェーン分析の概要について説明しました。バリューチェーン分析を実施するかどうかを判断するには、次の2つのメリットを知っておくことも大切です。

強み・弱みをふまえて事業展開できる

バリューチェーン分析をおこなうと、事業の各プロセスが生み出す付加価値の量やバランスを把握できます

たとえば「仕入れの工程では、原材料費を抑えて材料の調達ができている」「流通の段階では、流通網が限定されており、製造しても顧客に届けにくいのが課題」といったことが分析で得られます。

競合よりも優れている点や劣っている点を明確にできるので、力を入れるべき部分や改善が必要な部分を考えながら経営戦略に活かせます。

また、自社だけでなく他社のバリューチェーン分析もすれば、競合がどのような強み・弱みを持っており、それらをふまえて今後どのような戦略をとってくるのかを予測できます。

「競合は高い品質を重視しているから価格を上げてくると考えられる。そのため自社は仕入れ額を抑えられるメリットを活かして低価格で高品質な商品を展開する」のように、競合の動きを予測して自社が取るべき戦略を考えれば、より有利に事業展開できるでしょう。

企業により多くの利益を残せる

上述したように、バリューチェーン分析をすれば、どの活動がどれくらいの価値を生み出しているかを明確にできます。

「実店舗で顧客対応をするスタッフを増やしているが、通販サイトでの売上のほうが伸びている」ということが分かれば、実店舗に配置するスタッフを減らして、WEB広告の出稿やSNS運用で通販サイトへのアクセスを増やす施策に費用やマンパワーを多く割り当てるなどの戦略につなげられます。

分析によって経営資源を集中させるべき部分を明確にできれば、余計な費用を抑えつつ売上を伸ばせるので、企業に残る利益をさらに増やせるでしょう。

バリューチェーン分析の手順とは?

企業にさまざまなメリットをもたらすバリューチェーン分析ですが、スムーズに企業が取るべき戦略を考えるためには、バリューチェーン分析の手順を知っておかなければなりません。具体的な手順は次のようになります。

以下では、これらの手順について詳しく説明します。

自社のバリューチェーンを把握する

バリューチェーン分析をする際は、まず自社のバリューチェーンを把握することから始めます。上述した内容を参考にして企業の主活動を分類するとスムーズです。

たとえば、オーガニック野菜の販売を手掛ける小売店で主活動を分類した例を紹介すると、次のようになります。

業種ごとに主活動の内容は異なるため、自社の状況にあった分類をすることが大切です。

また、次の手順では、分類した活動ごとに企業の強みや弱みを明確にし、それぞれの活動ごとに戦略を立案します。具体的な施策を考えるためにも、なるべく主活動を細かく分けておくのがおすすめです。

それぞれの活動にかかるコストを把握する

次に、分類した主活動ごとに必要なコストを把握します。上述したオーガニック野菜の販売を手掛ける小売店を例にすると、次のようになります。

活動内容 コスト
商品企画 300万円
仕入 1,500万円
店舗運営 3,000万円
集客・マーケティング 800万円
販売 1,200万円
アフターサービス 500万円

すでに各活動ごとにかかるコストを把握している企業であれば、具体性のある数字でコストを算出できるでしょう。もし、事業を立ち上げて間もないためはっきりとした数字を出せないのであれば、業界ごとの平均的な数字や同様の規模間の企業の数字を参考にするのがおすすめです。

1つの部署で複数の事業に取り組んでいる場合は、活動の割合でコストを算出するとよいでしょう。企業の現状に近い数字であるほど、余計なコストがかかっている部分や多くのコストを割くべき部分が見えやすくなるので、根拠になるデータや資料を用いることが大切です。

活動ごとの強みや弱みを分析する

各活動にかかるコストを算出したら、次は活動ごとの強みや弱みを分析します。

以下のように表にまとめると視覚的に把握しやすくなります。

活動内容 強み 弱み
商品企画 豊富なアイデアを出せる職場環境と人材がそろっている 企画や開発コストが限られていて試作を作れる数に限度がある
仕入 生産者と直接契約しているので仕入れコストを抑えられている 気象条件によって仕入れ額や入荷数が異なる
店舗運営 全国に店舗を展開しており、自社の商品を幅広く流通させられる エリアによっては需要が低く、十分な売上を出せていないところがある
集客・マーケティング ECサイトを運営することで、オンラインで販売できるようにしている ECサイトの認知度が低く、アクセス数が伸び悩んでいる
販売 現金だけでなく、キャッシュレス決済にも対応しているため、会計に関わる業務コストを抑えられている シニア層の顧客が多く、キャッシュレス決済を利用している人が少ない
アフターサービス カスタマーセンターに多くの人員を配置しているため、問い合わせに対してスムーズに対応できる 関連商品を聞かれることが多いが、顧客データとうまく連携できないためすぐに回答できていない

ここでは活動ごとに強みと弱みを1つずつ挙げましたが、広い視野で経営戦略を立てるためには、各活動に関わる従業員にヒアリングをして多くの意見を集めることが大切です。

また、自社だけでなく他社に関する分析も同時におこない比較することで、市場において有利に事業を展開する方法を考えやすくなります。

VRIOで競争優位性を見出す

各活動における自社や他社の強み・弱みを抽出したら、最後に強みごとにVRIO(ブリオ)分析で経営資源の競争優位性を整理します。

VRIO分析とは、次の4つの視点で経営資源を評価する手法です。

  • Value(価値) :目標達成に有効か
  • Rareness(希少性):希少性が高いか
  • Imitability(模倣可能性):他社に真似されにくいか
  • Organization(組織):強みを活かす組織づくりができるか

これらの視点でそれぞれの強みに0~5点の点数をつけ、力を入れるべき部分を明確にします。

たとえば、「通販サイトを運営することで、オンラインで販売できるようにしている」という強みにおいて、「他社に真似されやすい」という課題(Imitability)が見つかった場合、「通販サイトだけでなくSNSからも1クリックで商品を購入できるようにする」といった戦略を立案できます。

このような流れで経営資源を多く割り当てる部分や取り組む優先順位を決めれば、効率的に利益を増やせるでしょう。

まとめ

ここでは、バリューチェーン分析の概要やメリット、分析の手順について説明しました。

ここで説明した内容を参考にして、企業の強みや弱みを客観的に把握し、市場で有利な事業展開をしましょう。

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