「多くの顧客のニーズを満たす商品やサービスを販売したほうが、効率的に売上を伸ばせるのではないだろうか?」と思う人も多いのではないでしょうか。しかし、近年、市場が多様化しているため、いかにニーズに沿った商品やサービスを販売しても競合との競争に巻き込まれるため、想像通りに売上を出すのは簡単ではありません。

そのような状況下で、他社との競合を避けつつ企業の売上を維持するための考え方として、「ロングテール理論」に注目が集まっています。今回は、ロングテール理論の概要や注目される理由、活用するメリット・デメリットや他社の事例を紹介します。

そもそもロングテール理論とは?

そもそもロングテールとは、「人気商品の売上総額よりも、ニッチ商品の売上総額のほうが上回る現象」という意味です。

一昔前は、店舗型ビジネスにおいては人気商品の売上が、全体の売上の大半を占めるケースがほとんどでした。

しかし近年のネットショッピングの普及により、「たまにしか売れないニッチ商品」を陳列スペースを気にせずに販売できるようになりました。1つ1つの金額は小さいニッチ商品でも、総額では売れ筋商品以上の売上を生み出すケースも増えてきたのです。

この概念は、2004年にアメリカの雑誌「Wired Magazine」の編集長クリス・アンダーソン氏が提唱し、現在では新たなマーケティング戦略として世界中に広まっています。

また、検索エンジンで上位取得を目指すSEOという分野においては、検索されている数が少ないキーワードのことを指して「ロングテールキーワード」と呼びます。これらのキーワードでの上位取得を狙うことでサイトへの流入数を増やす「ロングテールSEO」として、WEB上では各企業やサイトが対策を行っています。

このように、商品販売以外の分野でもロングテールという概念は存在します。

ロングテール理論が注目される理由

ロングテール理論が注目を集める大きな理由として、「IT技術の発展」が挙げられます。以前は、「全体のうち2割の商品が、全体の売上の80%を占めている」という「パレートの法則(80:20の法則)」の概念が主流でした。

そのため、実店舗では売上に貢献する上位20%の商品を大量にラインナップするところが多く、ほかの80%の商品を扱う店舗はあまり存在しませんでした。

しかし、インターネットやスマートフォンの普及によって、顧客は実店舗だけでなくオンラインでも商品やサービスを購入できるようになりました。

Amazonを代表とする各種通販サイトは、実店舗のように広い売り場面積を必要としないので、年に数回しか売れない商品でも大量に取り扱うことが可能です

この手法によって顧客のニーズを幅広くカバーするとともに主力商品に対抗する売上も出せることが分かったため、多くの企業が導入するようになりました。

ロングテール理論のメリットとは?

ロングテール理論で事業運営するメリットは、次の3つです。

ロングテール理論にもとづきビジネスを行うメリット
  • 顧客のさまざまなニーズに応えられる
  • 安定的な売上を維持できる
  • 多くの商品を売り場に出し続けられる

以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。

顧客のさまざまなニーズに応えられる

ロングテール理論では、ニーズの高い商品・サービスだけでなく、求められる頻度が少ないものまで幅広く扱うため、顧客のさまざまなニーズに応えられます

たとえば「業務用のコーヒーマシンが欲しい」「極寒の冬山でも暖かい寝袋が欲しい」といったニーズも、ロングテール理論で商品をそろえれば満たすことが可能です。

また、上述したように、ロングテール理論ではたくさんの商品を売り場に出し続けられるので、顧客のニーズや購買履歴に沿った商品をレコメンドしやすくなります。

顧客のニーズにあう商品やサービスを提案できれば、それだけ売上につながる可能性も高まります。顧客満足度を高める事業運営をすれば、企業のファンを増やしリピート利用を促しやすくなるので、ロングテール理論を活用するメリットは大きいです。

安定的な売上を維持できる

ロングテールのビジネスが軌道にのれば、一時的な流行や競合企業の存在に左右されることなく安定的な売上を維持できます

ホームセンターや総合通販サイトのように、特定の商品に特化せず幅広いアイテムを提供できるビジネスでは、一部商品のブームが終了して取り扱えなくなったとしても全体に対する影響を抑えることができます。

爆発的に売上を伸ばす期待はしにくいですが、将来の収益を計算できるので安定した事業運営が可能です。

多くの商品を売り場に出し続けられる

通販サイトのように、オンラインで事業展開する企業では、WEBページを作成しさえすれば物理的な陳列スペースは不要です。たとえ年に1回しか売れないような商品でも常時ネット上に陳列し、販売することができるのです。

ロングテール理論のデメリットとは?

活用するメリットが大きいロングテール理論ですが、以下のデメリットも知らなければなりません。

ロングテール理論のデメリット
  • ホームページを作りこまなければならない
  • 即効性が期待しにくい
  • 商品数・在庫管理できるスペースや体制が必要

以下では、これらのデメリットを詳しく説明します。

ホームページを作りこまなければならない

ロングテール理論では、顧客の多種多様なニーズに対応しなければならないので、それだけホームページ上のコンテンツを充実させる必要があります。コンテンツが充実していないと、ニーズを持つ顧客が検索エンジンで調べても商品やサービスに関するページを表示させにくくなるからです。

たとえば、幅広い年齢層に対応するファッションアイテムを扱う企業の場合、各年齢層ごとに商品をそろえるだけでなく、それぞれの説明文や画像を用意する必要があります。

日用雑貨を扱う企業でも、商品ごとの特長や活用方法、注意点といった情報を1つひとつ入力しなければなりません。扱う商品が少なければこれらの作業負担は少ないですが、ロングテール理論では扱う商品が多いので、商品数によっては膨大な手間や費用がかかります。

即効性が期待しにくい

通販サイトでロングテール理論を活用した事業運営をする場合、企業のページが検索エンジンで上位表示される施策を取る重要性は高いです。

しかし、どれだけ魅力的なコンテンツをたくさん用意しても、検索エンジン上で表示される順位が安定するまでに半年程度はかかるといわれています。また、コンテンツを充実させるのに時間がかかることも考えると、即効性が期待しにくい販売手法だといえます。

ロングテール理論でビジネスを展開するのであれば、長期的な視野で目標を設定して施策に取り組むことが大切です。

商品数・在庫管理できるスペースや体制が必要

多くの商品を幅広く販売するとなると、その分の在庫を管理できるスペースが必要になります。また、それらの在庫を管理するためのシステムや仕組み、体制についても整えておかなければ、商品の破棄や無駄なコストに繋がってしまう可能性もあります。取り扱う商品数や種類を増やす際は、実際にそれらを扱得る状態にあるかをよく考えましょう。

ロングテール理論の活用に成功した企業の事例

ロングテール理論をうまく活用するには、他社の成功事例を知ることも大切です。

以下では、ロングテール理論の活用に成功した企業の事例を紹介します。

北欧デザイン家具の設計・販売をする企業の事例

北欧デザイン家具を設計・販売する企業の事例を紹介します。この企業は、駅から離れた場所に大型の店舗を展開することで、たくさんの商品をそろえています。

また、もともと集客力が高かったこと、在庫切れを最小限に抑えていたことから、離れた場所に住む顧客が安心して足を運べるのも特徴です。「家具の購入に失敗したくない」「実物を見てから購入したい」という顧客のニーズを満たせているのも、高い集客力と売上を維持できている理由だと考えられます。

地方にあるスーパーの事例

東京ドームのグラウンド面積3個分と、大きな敷地で店舗を展開する地方のスーパーの事例です。このスーパーは、車や仏具などあらゆる商品を取り扱っているのが特徴です。

広大な敷地面積を活かしてロングテール理論の実践に必要な「種類豊富な商品の陳列」を実現しています。

複数の店舗に足を運んで必要な商品をそろえるのは大変ですが、顧客に「この店舗に行けば求めているものをすべてそろえられる」という印象を与えることで、高い集客力と売上を出すのに成功しています。

海外の音楽配信サービスの事例

最後に、有名な音楽配信サービスの事例を紹介します。このアメリカ発の音楽配信サービスは、CDではなくデータとして音楽を販売したことで多くの売上を獲得しています。

CDを店舗に陳列して管理するのには大きなコストがかかりますが、音楽をダウンロード販売したことで運営コストを大幅に削減したのが特徴です。

また、国内外のメジャーな楽曲はもちろんのこと、マイナーな楽曲まで幅広く配信しているのも魅力です。居住エリアでは手に入れられない楽曲も自宅にいながら聴けるため、世界中の顧客を囲い込むことに成功し、楽曲販売事業としての独自のポジションを獲得しました。

まとめ

ここでは、ロングテール理論の概要や注目される理由、事業展開に活かすメリットデメリットや他社の成功事例を説明しました。

企業によっては、ロングテール理論を取り入れた事業運営をするハードルが高いかもしれません。しかし、独自の経営資源をうまく活用すれば、より多くの顧客のニーズを満たすことも可能です。ここで説明した内容を参考にして、企業の売上を伸ばすために有効な経営戦略を考えましょう。

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