企業が手がける商品やサービスを販売するときは、価格設定を考えなければなりません。しかし、事業展開する市場ごとに相場があるため、設定する価格があまりにも高いと販売数が伸びにくくなりますし、価格が安すぎると利益が残りづらくなります。

また、より適切な価格設定をするためには、業界全体の価格設定に影響を及ぼす「プライスリーダー」が設定する価格も参考にしたほうがよいでしょう。

商品やサービスの適切な価格設定ができるよう、ここではプライスリーダーの概要やプライスリーダーが持つ優位性、プライスリーダーの代表例や市場で生き残る方法について詳しく説明します。

そもそもプライスリーダーとは?

そもそもプライスリーダーとはどのような企業のことを指すのでしょうか。

プライスリーダーの概念を知るには、寡占市場の意味を知る必要があります。

まずは寡占市場の意味を知ろう

寡占市場とは、少数の大企業がシェアを独占している特定の市場です。

寡占市場で大きなシェアを持つ企業は、他社が市場に参入できないほどの生産力や販売力を持っています。そのため、業種や商品・サービスによっては、値上げなどのアクションを起こす際に、消費者へ不利益をもたらさないように公正取引委員会への報告が求められる場合があります。

プライスリーダーとは?

プライスリーダーとは、寡占市場の中で市場全体の価格設定に影響を与える業界リーダーです。

プライスリーダーは市場において最も大きなシェアや強力な販売チャネルを持っているケースが多く、その力を活かして2位以下の企業の競争状況を踏まえて価格を設定できます。

仮にプライスリーダーが値下げをした場合、2位以下の企業は、自社のシェアがさらに奪われることを恐れて、その価格に追随せざるを得ません。

プライスリーダーが値上げをすると、それに追従して他社も値上げするケースが多いため、プライスリーダーの動向によっては消費者の負担が増えることになります。

プライスリーダーになると、自由に価格設定できるため多くの利益を得られます。その利益を広告宣伝や商品開発に回すことでより多くの売上を獲得できるため、さらに業界での地位が強固になります。

プライスリーダーが持つ優位性とは?

このように聞くと、「原材料や製造工程を見直し、プライスリーダーよりも低価格で販売すればよいのでは?」と考えるかもしれません。

しかし、プライスリーダーは強力な生産能力を保有しているため、実際にはより低価格で販売するポテンシャルを持っているケースがほとんどです。そのため、プライスリーダーよりも低価格で販売すると、プライスリーダーが対抗してさらに値下げする…という消耗戦が始まってしまい、お互いにとって損になる可能性があります。

このような暗黙のルールを理解しているため、寡占市場のプレイヤーはお互いに価格で対抗せず、商品の特性の違いを強調するなどでシェア拡大を図るケースが多く見られます。このように価格が高い状態で維持された状態を、「価格の下方硬直性」と呼びます。

プライスリーダーがいる市場の問題点とは?

市場で有利なポジションを築けるプライスリーダーですが、プライスリーダーになれる企業はごくわずかです。もし参入する市場にプライスリーダーがいる場合、次の問題が生じます。

以下では、これらの問題点について詳しく説明します。

価格が上がる可能性がある

プライスリーダーが存在する市場では、リーダー企業が利益を増やすためにいきなり値上げをする可能性があります。

先にも述べたように、「プライスリーダーよりも安く販売すると、お互いにとって不利な価格競争が始まるので、なるべく価格を合わせよう」と考える企業が多く、市場の相場が上がるといったことが起こり得ます。

寡占市場においてすべての企業がプライスリーダーの値上げに追従すると、値上げによるしわ寄せは消費者に来るため、各家庭の家計を圧迫することにつながります。

ただし、小規模な企業がプライスリーダーの価格を下回る価格で参入してきた場合、プライスリーダーはあえて価格競争をしない場合もあります。対抗して価格を下げることもできますが、そうするとシェアは維持できても自社に入る利益が少なくなってしまうため、多少シェアが奪われたとしても共存したほうが得という発想になるのです。

品質が下がるリスクがある

寡占市場は、シェアを独占する企業が安定的に利益を出せる仕組みになっています。そのため、各企業の売上が安定して競争が落ち着くと、企業によっては品質を落としてより多くの利益を確保しようとする場合があります。

品質が落ちると、消費者は以前と同じ金額を支払っているにも関わらず、満足度の低い商品やサービスを利用することになります。値段が変わらないにも関わらず、「購入した商品が壊れやすくなった」「注文した料理のトッピングが減った」といったことが起こる場合があるため、消費者の満足度が低下してしまいます。

プライスリーダーの代表例を紹介

プライスリーダーについて理解を深めるには、実際にプライスリーダーとして存在する企業を知ることも大切です。

以下では、プライスリーダーの代表例を紹介します。

ハイグレード賃貸住宅の事例

不動産にもさまざまな種類がありますが、「ハイグレードな賃貸住宅」というジャンルを扱う不動産は少ないため、寡占市場に該当します。

ある不動産会社は、「駅から徒歩数分」という好立地に土地を購入し、2020年に収益不動産になりうる賃貸住宅を建築・販売しました。都心へのアクセスがよいことや、高級感のある仕様、快適な居住生活を実現する間取りといった工夫が凝らされており、「高級感のある立地のよい物件に住みたい」という人のニーズを独占しています。

また、独身者や共働きで子供を意識的に作らないDINKS層で、法人契約や家賃補助のある人をターゲットにしているのも、プライスリーダーの地位を獲得できた要因の一つです。ターゲット層を絞り込んで市場を細分化させることで、物件を購入したオーナーが自由に価格設定できる状況を構築しています。

参考:積水ハウスの賃貸住宅 シャーメゾン

清涼飲料水を販売する企業の事例

清涼飲料水を販売する大企業の事例です。この企業は、2014年にペットボトル飲料や缶飲料の多くを10円ずつ値上げしています。国内で清涼飲料水を販売する企業はある程度限定されているため、すでに多くのシェアを獲得しているこの企業の値上げに伴って、ほかの清涼飲料水メーカーも値上げできる状況になりました。

もちろん、清涼飲料水市場全体で価格上昇が起これば、そのダメージは消費者が受けることになります。一定の需要が落ち込むリスクはありますが、ほかに安く販売する企業がないため、結果的にどの企業も値上げによって利益が増えることになります。

参考:コカ・コーラ、自販機商品を10円値上げ 一部は据え置き

ビール業界の事例

ビール業界は、シェアの上位を占める企業が数社に限定されている寡占市場です。

この市場では、1990年までは特定の2社が交互に価格設定をおこなっており、それに追従して他社が価格を変更していました。しかし、1990年を過ぎると、ほかの企業も徐々にシェアを拡大してきたため、プライスリーダーが混在するようになりました。

企業によっては、プライスリーダーが価格を上げたにも関わらず値上げを据え置き、シェアを拡大させています。戦略によっては、安易にプライスリーダーに追従しないのも方法のひとつです。

参考:日本ビール産業の現況

牛丼業界の事例

1982年に設立した牛丼チェーン店を展開する企業の事例です。この企業は、2017年に原材料の値上がりを理由に商品価格を値上げしました。これは、中国や東南アジアにおける牛肉消費の拡大が要因で、企業の利益を確保するために値上げしています。

値上げによる顧客離れが懸念されていましたが、この企業はメニューの豊富さと品質に自信を持っていたため、顧客離れは深刻化しないと予想しました。プライスリーダーが値上げ後も売上を確保し続けるには、他社にない強みを持つことが大切だと言えます。

参考:すき家の決断「牛丼並盛以外を値上げ」の衝撃

タイヤメーカーの事例

国内大手のタイヤメーカーの事例です。この企業は、2017年に従来予想を90億円上回る利益を出しています。これは、国内のタイヤ市場でシェアの多くを獲得していることや、海外においても強いブランド力を発揮できていることが理由です。

また、プライスリーダーとしての値上げが市場に浸透しやすいのも、売上を伸ばせた要因となっています。自社販売網が充実しており、価格設定の変更を各販売店に短期間で反映できることから、プライスリーダーとしての地位を維持しているのです。

参考:ブリヂストン純利益9%増 17年12月期、大型タイヤ好調

自転車メーカーの事例

1972年に台湾で創業したある自転車メーカーは、ロードバイク市場での事業展開に力を入れることでプライスリーダーへと成長しています。

この企業は、高い自転車製造技術を活かし、他社に真似できない高品質なロードバイクを開発・販売しています。「このメーカーでしか手に入らない」という印象を顧客に与えられているため、価格設定を高めても自転車ファンを維持できています。

参考:ジャイアントのブランドストーリー(前編)〜自転車工場としての成長〜

プライスリーダーがいる市場で生き残るには?

事業を展開する市場によっては、「プライスリーダーの影響で売上を伸ばせない」という状況になるかもしれません。

プライスリーダーがいる市場で生き残るには、次のポイントを意識して経営戦略を練る必要があります。

以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。

プライスリーダーの模倣をする

ある程度の経営資源を持っていても、プライスリーダーと差別化を図れなければ売上アップやシェアの拡大を実現するのは困難です。

しかし、プライスリーダーの経営戦略を模倣し、そこに自社の強みや独自性を盛り込めば、独自性のある事業展開をしやすくなります。

たとえば、「タイヤを販売している企業を模倣した販売手法を構築し、手がける商品をSUVや大型トラック用のタイヤに限定して商品開発する」といった手法が挙げられます。このように、基本的な経営戦略は似ていても、アプローチする視点を変えればプライスリーダーの影響を抑えることが可能です。

プライスリーダーが参入できないポジションをつくる

中小企業によっては、「十分な経営資源がないためプライスリーダーの模倣ができない」というところもあるでしょう。その場合、プライスリーダーが参入できない(もしくは市場が小さいためあえて参入してこない)ニッチなポジションをつくることで、直接的な戦いを避けつつ売上を伸ばすことができます。

たとえば、「京風の牛丼やうどん、かつ丼などを提供して牛丼チェーン店との戦いを避ける」といった戦略が考えられます。プライスリーダーほどのシェアや売上を獲得できなくても、ライバルが参入できないポジションを確立できれば生き残りやすくなります。

まとめ

ここでは、プライスリーダーの概要や優位性、市場にプライスリーダーがいると生じる問題点やプライスリーダーがいる市場で生き残る方法について説明しました。

事業展開する市場によっては、自社がプライスリーダーになる場合もあれば、プライスリーダーに追従しなければならない場合もあります。多様化する市場でうまく売上を出し続けるためにも、市場における自社の立場を客観的に把握して経営戦略を立案しましょう。

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