エリアマーケティングは企業経営や店舗運営に欠かせない売上や認知のアップを目指せるマーケティング手法の1つです。エリアマーケティングの成功には、周辺の居住者やエリアの特性を知るための商圏分析や、広告や販促をどれだけ丁寧に行って計画を立てられるかが大きく影響します。

そこで、本記事では、エリアマーケティングを実施するメリットや商圏分析のポイント、相性が良い広告の種類などについて詳しく解説します。

地域に密着した活動の成功のカギ、エリアマーケティングとは?

エリアマーケティングとは、地域における市場の特性を把握・分析し、特定の地域に特化した「売れる仕組み」をつくるマーケティング手法のことです。「地域密着型マーケティング」と呼ばれる場合もあります。

エリアマーケティングの背景としては、マスマーケティングが主だった時代からはじまり概念ができたとされるのは1970年代後半とされています。フィリップ・コトラーが提唱したSTP理論(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングのフレームワーク)のなかで、市場の細分化の方法の一つとして”エリア”でセグメントした分析や活動がより発展して「エリアマーケティング」と呼ばれるようになりました。今日では「地域」の切り口で行う活動が広く「エリアマーケティング」と呼ばれています。

エリアマーケティングは、特定地域の生活様式やそこにある交通インフラ、産業など地域特性を考慮したうえで販売、営業、マーケティング施策などを考える活動となります。小売業など店舗を展開する事業者にとってのエリアマーケティングの実践は、新規出店の計画や既存店舗の改善のいずれにも企業の競争力を高める効果が期待でき、競争優位性の獲得には欠かせない考え方となります。

また、客観的なデータを定量的に分析して販売戦略や店舗開発に活かす「商圏分析」を通じて実施するエリアマーケティングは、事業戦略の精度を高め将来の方針決定にも大きく役立ちます。

エリアマーケティングを実践するメリット

特定地域における販促や広告戦略の推進など「売れる仕組み」づくりに役立つエリアマーケティング。そんなエリアマーケティングを実践するメリットとして、次の4つが挙げられます。

エリアマーケティングを実施するメリット
  • 売上予測や需要予測が行える
  • エリアの分析から自社の潜在顧客を把握できる
  • 顧客に適したアプローチ・販売戦略が可能
  • 事業計画の精度を上げることができる

いずれも新規出店と既存店舗の両方に役立つメリットです。それぞれの詳しい内容を解説します。

売上予測や需要予測が行える

エリアマーケティングの実践は、店舗における売上や需要の予測につなげることができます。具体的には、消費者は近隣かつ大型店舗に行くという前提で来店確率を予測する「ハフモデル」の活用や、売上に影響する要素の因果関係をもとに数値や予測の精度を高める「重回帰分析」などの分析手法により、エリアマーケティングのプロセスで得た情報を役に立てることができます。

エリアマーケティングのプロセスで得た情報は、各地域の需要規模や自社の売上予測につながり、新規出店エリアの選定や既存店舗の集客施策の改善と強化を、より戦略的に進めることができます。

エリアの分析から自社の潜在顧客を把握できる

エリアマーケティングの実践には商圏内の居住者情報の分析が重要になります。企業や店舗で商取引の対象になる地域の範囲を示す「商圏」における人口、男女比や世帯構成、職業、消費支出額の傾向などの市場規模の項目に関する分析をする中で、まだ把握できていない自社の潜在顧客が見えてきます。

さらに、自社の顧客となりえるポテンシャルの把握につながり、その潜在顧客に焦点を当てた具体的な販促施策の立案も可能にします。

顧客に適したアプローチ・販売戦略が可能

エリアマーケティングの考え方で潜在顧客を把握することができれば、販促におけるエリアのセグメントや、届けるうえでの性年代のセグメントを行い、顧客ごとに適したアプローチや販売戦略の実施が可能になります。

マーケティングによって販売や来店につなげるには、自社の商品やサービスにマッチする人に的確な方法でアプローチをしなければなりません。例えば、学生の多い地域と子育て世代の多い地域では、取るべきアプローチや販売戦略は大きく異なります。

地域による特性の違いを明らかにすることで販売促進における戦略策定に役立ち、結果として客数や売上、リピート率の向上を期待できるのです。

事業計画の精度を上げることができる

事業計画とは、これからどのように経営・戦略をしていくのか詳細にまとめたものを言います。社員やスタッフだけでなく外部の関係者にも共有を行うためより具体的にする必要があり、精度が低いものだと経営の軸がぶれてしまうこともあります。

そこでエリアマーケティングを行うことによって、上記メリットのように売上や需要予測を立てることができ、潜在顧客の把握や販売戦略などより具体的に計画を立てることが可能になります。

エリアマーケティングのやり方とは

エリアマーケティングを実施するにはまず商圏分析(現状把握)を行います。商圏を正しく把握することは、そのあとの販売、営業、マーケティング活動を適切に行うことに繋がるため、重要です。商圏分析のポイントについてはこのあと詳しく解説を行います。

商圏分析を行ったあとは、結果から読み取った内容を基に施策を行うエリアを決めます。成果が上がる・変化を起こすべき場所を選び、競合がどれだけいるかなどの状況も併せて確認することが大切になります。

実際に施策を行ったあとは長期的な目線で効果の検証を行います。その施策を実施したことでエリアの購買行動が変わったかどうか、当初の目的を達成しているかどうかを確認し、想定よりも良い結果が出なければ改善すべき点を洗い出します。良い結果が出ればさらに販促を展開することができます。

このようにPDCAのサイクルを回すことで、エリアに特化したアプローチを掛けることができます。

商圏分析を行うポイント

エリアマーケティングに欠かせない商圏とは、店舗の顧客となる可能性がある消費者が住んでいる範囲のことを言います。この商圏の分析を行う際は、次の4つのポイントを押さえて実施する必要があります。

  • マクロ環境の分析
  • 地域住民の分析
  • エリアの特性の把握
  • 競合の調査

ここでは、ポイントごとに詳しい内容を解説します。

マクロ環境の分析

まずは、商圏分析で重要な要素となる「マクロ環境の分析」です。「マクロ」とは、大きな視点で物事を捉えることを意味します。エリアマーケティングにおける「マクロ」な視点で捉えるべき地域特性の指標や情報は次のとおりです。

  • 人口統計/人口動態(将来推計人口)
  • 人口分布
  • 居住形態
  • 昼夜間人口差
  • 世代構成/年代
  • 6歳以下のこどもの数/高齢者数
  • 主な交通手段
  • まちづくりの計画や大規模な開発の予定

これらのマクロな視点での指標や情報の分析は新たなビジネスチャンス発見はもちろんのこと、ニーズの変化や人口増減といった危険因子の把握にもつながります。その結果として、中長期的なマーケティング施策の立案にも役立てられます。

国内の人口や世帯の実態など統計調査で活用するのにおすすめなのが「国勢調査」です。国が5年ごとに実施しており、総務省統計局のホームページで誰でも無料で確認ができます。

参考:国勢調査 01420 世帯の家族類型(16区分),6歳未満・18歳未満・65歳以上・75歳以上・85歳以上世帯員の有無別一般世帯数及び一般世帯人員 全国(市部・郡部),都道府県(市部),21大都市,人口50万以上市区 | データベース | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

地域住民の分析

商圏分析をするうえでは、特定地域においての成員が共通して成り立っているような生活の送り方、いわゆるライフスタイルについても分析しなければなりません。なぜなら、商圏として捉える地域の需要は住民の志向が色濃く影響するからです。

例えば、家族の人数が多い世帯が多く、車で移動する方が多いような地域では大型スーパーでのまとめ買いが多くなる傾向になったり、タワーマンションが密集していて、若い世代の夫婦で小さなお子様がいるようなご家庭が多いエリアでは、高付加価値の商品が売れたりと、地域に住んでいる人のライフスタイルは店舗やビジネスにも大きく影響を与える要素になります。

単純な指標そのものの定量的な傾向だけではなく、地域住民の行動や生活様式にも焦点を当てて分析することで、対象とする商圏において自社のビジネスではどのような形でニーズに応えることができるのかを判断するのに役立ちます。

エリアの特性の把握

商圏を分析する際は住民のライフタイルだけではなく、エリアごとの特性も把握する必要があります。

例えば、冬に気温が著しく低くなる地域では、雪などの影響もあって外出の頻度が少なくなることが考えられます。そのため、時期によっては外食の機会が少なくなったり、買い物の回数が減ったりと地域ならではの特性が生じるケースもあるでしょう。

また、交通インフラや自然環境といったアクセス上の特性も商圏分析に欠かせない要素です。どんなに良い商品やサービスを提供できたとしても、エリアの特性によっては普及しない場合もあるため、可能な限り多角的な視点で分析しなければなりません。

競合の調査

商圏分析では、顧客分析だけでなく商圏が重なる競合の調査も必要です。「競合がどのようにして顧客を獲得しているか」や「商圏人口をどのくらい占有しているのか」といった情報を知ることは、新規出店と既存店舗のいずれの活動の場合においても重要な取り組みです。

さらに、競合が取り扱う商品やサービスの内容についても入念に調査することで、自社におけるエリアマーケティング施策の精度を高めることにつながります。ただし、競合の調査にはノウハウやリソースを要するため、リサーチに長けた企業との連携も視野に入れる必要があるでしょう。

エリアと相性の良い広告・販促を考えて利用

商圏分析によって得た競合や顧客の情報は、広告・販促活動にも活かすことができます。数ある施策の中でもエリアマーケティングのデータを活用した取り組みとして相性の良い広告は次の3つが挙げられます。

相性の良い広告
  1. Web広告
  2. 宛名なしDM
  3. ポスティング

施策に費やしたコストに対してどれくらいの効果を得たかを示す「費用対効果」を高めるためにも、特徴について知り自店に適した手法を見つけましょう。

Web広告

Web広告とはその名の通り、インターネット上のメディアに掲載する広告のことです。
「デジタル広告」「オンライン広告」「インターネット広告」と呼ばれる場合もあります。Web広告の代表的な種類は次のとおりです。

  • リスティング広告
  • アフィリエイト広告
  • ディスプレイ広告
  • アドネットワーク広告
  • リターゲティング広告
  • 記事広告(タイアップ広告)など

Web広告の特徴として、細かくターゲットを設定できる点が挙げられます。広告を見る人の性別や時間帯、興味などにあわせて自社の広告を届けることが可能です。

Web広告はエリアセグメントができないメディアだったのですが、近年、技術の発展により細かくエリアセグメントができる広告も存在します。「地域」を絞って展開する広告についても効果を期待でき、店舗周辺に住む人に集中して訴求するといった施策にも活用することができます。

宛名なしDM

DMとはダイレクトメッセージの略称で、特定の顧客に直接広告を届ける広告全般を意味します。ポストに入るチラシや商品カタログ、Eメールなどを通じて訴求するのが一般的です。

なかでも宛名なしDMでは、新規店舗の立ち上げ時など顧客リストが手元にない場合でも指定したエリアに届けることが可能です。その際にエリアマーケティングを活用すれば、ターゲットにアプローチできる効果の高いDMで情報を届けることができます。個人情報の取り扱いが厳しくなっているなかでも活用できる広告です。

DMは商品やサービスの認知を得やすく、自分のための情報という受け取られ方から情報を自分ごと化してもらえる点が特徴といえます。また、送付後の反応や購入率、リピート率の分析によって次の施策に活用できるデータを収集できる点もメリットといえるでしょう。

DMの種類や作り方についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

https://www.i-nobori.com/media/2521

ポスティング

ポスティングとは、チラシや手紙、パンフレットなどを個人や法人のポストに投函する広告手法のことです。

ポスティングのメリットは、狙った地域に対して確実に情報を訴求できる点です。不特定多数をターゲットにしないエリアマーケティングにおいて、地域を限定できるポスティングは限られた予算で展開しやすく、反響を得やすい広告といえます。

ただし、商圏分析から得た情報に誤りがあったり、精度が低かったりすると思ったような効果を得られないケースもあります。マクロ環境の分析から得た情報をもとに訴求したい相手を定義し、定期的かつ継続的な実施によって成果を目指すことが大切です。

ポスティングの集客効果を高めるポイントについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

https://www.i-nobori.com/media/2567

エリアマーケティングツールの活用

企業経営において欠かせないエリアマーケティング。しかし、すべてを自力で実施するのは現実的ではありません。商圏分析によって地域住民やエリア、競合の情報を得るには多くの手間とコストを要します。

そこでおすすめするのが、エリアマーケティングツールの活用です。エリアマーケティングツールとは、国が収集するデータを使って特定地域を分析し、その結果に基づいて情報をアウトプットしてくれるツールを指します。具体的には、商圏分析のレポート作成や販促エリアの優先順位付け、反響分析などエリアマーケティングに活用できるさまざまな情報の出力が可能です。その際に地図上に店舗や顧客の登録ができる「登録機能」や住所などを検索する「検索機能」、「分析機能」など多くの機能を活用することができます。

エリアマーケティングツールを活用することで、分析にかかる手間と時間の削減や分析精度向上に繋げられるでしょう。総務省統計局が提供している「jSTAT MAP」は無料で使用でき、エリアや統計グラフ、レポートなどの作成機能があります。その他さまざまな企業からツールは提供されているので、予算や機能、使いやすさなどにあわせて探してみましょう。

参考:地理情報システム jSTAT MAP

GPSデータから高鮮度のエリアマーケティングができる「オリコミサービス」(PR)

データの鮮度や精度を高く維持するには、ツールだけでなくエリアマーケティングに関わるさまざまなサポートを一貫して行ってくれる「オリコミサービス」に相談してみることもおすすめです。

「オリコミサービス」では居住者のデータ集計をはじめ、GPS位置情報データを搭載したこれまでにない「GIS (地図情報システム)」などを活用し、ビジネスに沿ったエリアマーケティングのサービスを提供しています。

具体例として「Location Navigator(ロケーション ナビゲーター)」という分析手法を用いた商圏やターゲット、競合の状況把握が可能です。推計ではない正解データとしての性別や年代、居住、勤務といった属性データを把握し、商圏や来訪者、時間帯別傾向などの鮮度の高い情報によってエリアマーケティングを支援しています。

さらに、商圏の市場特性や交通アクセス、競合施設の分布状況といった情報をもとにターゲットとする顧客の行動、背景にある意識構造などを推察することもできます。

専門的なサポートのもとエリアマーケティングに取り組みたいという方にはおすすめです。

まとめ

エリアマーケティングを実践し、特定地域において安定的な企業経営を図るには、入念な商圏分析を行ってから広告展開を考える、その手順が重要です。

商圏分析から得られる地域住民や地域の特性、競合、市場規模などの情報は、中長期的な事業戦略を描くうえで役に立ちます。また、エリアマーケティングと相性が良いWeb広告や宛名なしDM、ポスティングといった広告手法を駆使した戦略を取ることで、狙ったターゲットに直接情報を訴求することができます。

ただし、エリアマーケティングの実施には多くの手間と時間を要するのも事実です。エリアマーケティングを効率化するツールや支援サービスの活用も同時に検討し、自社の状態やリソースに合わせた取り組み方を考案してみてください。

記事のURLとタイトルをコピーする