美容室経営を成功させるには、美容師業界の現状に沿った正しい経営戦略が必要です。経営のノウハウを理解しないままに店舗展開や広告宣伝を実施すれば、様々な失敗を招いてしまうケースも考えられます。

そこで、本記事では美容室やサロンにおける具体的な経営戦略を紹介し、必要なスキルや失敗例も解説します。美容室経営を失敗しないためにも、経営のポイントを押さえていきましょう。

美容師業界の現状

政府の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、10人以上の企業規模の理容・美容師の平均年齢は「31.7歳」、年間の所定内給与は「265万」とされています。(e-Stat調べ)

データから読み取れるのは、目安として一人あたり年間265万円分の人件費がかかるということです。雇用するスタッフを増やせば増やすほど接客できる顧客数が増え、年間の売上は上がります。しかし、その分人件費も膨らみ、年間の経費は増えてしまうでしょう。

そのため、スタッフの人数によって売上や経費は大きく異なります。美容室を経営するには、売上と経費のバランスを見極める力が必要です。

参考:政府統計の総合窓口

美容室の経営に必要な資格

美容室を開業するには、美容師免許の取得が必要です。美容師免許は国家資格の1つで、厚生労働省認定の専門学校を卒業することで受験資格を得たのち、国家試験に合格すると取得できます。

また、自分以外のスタッフを雇うなら「管理美容師免許」を取得する必要があります。もし、美容室を開業する予定であれば、管理美容師免許の取得条件や講習会の情報は押さえておきましょう。

1人で美容室を営業するのであれば美容師免許のみの取得で問題ありません。スタッフは雇わず「セット面は1席、シャンプー1台で十分」といった、1人サロンという形式で営業を始めるのも1つの選択肢といえます。

経営者が陥りやすい失敗の傾向と対策

美容室の経営に必要な資格を確認したところで、経営者が陥りやすい失敗の傾向と対策を紹介していきます。

経営者が陥りやすい失敗の傾向
  • 経営のノウハウを知らず資金繰りでつまずく
  • 複数店舗の展開、経営がうまくいっていない
  • マネジメントができていない

見切り発車して経営に失敗しないためにも、それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。

経営のノウハウを知らず資金繰りでつまずく

美容室経営が行き詰まる原因の1つに、経営者自身の知識不足が挙げられます。店舗を切り盛りする経営者と現場で働く美容師では、求められる知識や能力は異なる部分があります。

そのため、独立開業を考えるのであれば美容師時代から売上や経費、人材育成などの知識を蓄え、経営のノウハウを習得しましょう。経営を学ぶには、セミナーへの参加や読書はもちろんのこと「経営の経験者に話を聞く」ことや「実際に独立した方から直接アドバイスをもらう」などの方法も考えられます。

先行者の成功や失敗の事例からは、経営に関する多くの情報を得られます。現場で学びつつも経営の知識を深め、独立後の盤石な経営体制を思案しましょう。

複数店舗の展開・経営がうまくいっていない

美容室経営が行き詰まる理由に、多店舗展開してグループ全体の売上が落ち込んでしまうケースがあります。

多店舗展開はメリットだけでなく「固定費や経費の増大」や「技術のある人材の分散」といったデメリットも秘めています。そのため、2号店や3号店といった店舗出店には慎重な判断が必要です。

経営する美容室が繁盛していても、まずは既存店舗の見直しを図るのがよいでしょう。営業時間の延長や座席数の増加など、既存店舗で売上を最大化できる工夫から始めてみてください。

マネジメントができていない

知名度がまったくない状態で美容室を開業してしまい、厳しい経営状況を強いられるケースもあります。

勤めていた美容室で人気の美容師だったとしても、独立後は自身で新たに顧客を獲得する必要もあります。そのため、オープン日が確定したら、新規顧客の獲得に向けた地道な宣伝が必要です。

また、美容室の経営には宣伝広告以外にも採算管理やSNS・ホームページの運用など、さまざまな観点でのマネジメントが求められます。スタッフを雇用する場合は、人材育成や教育も欠かせません。

マネジメントができていないと新規顧客やリピート客を獲得するための施策に時間を割けず、その結果として売上を確保できない状態となります。

美容室の経営戦略のポイント

資金繰りや店舗展開、マネジメントなどの関する問題が経営に失敗を招くことが分かりました。ここでは、これらの問題を解消するべく、美容室の経営戦略のポイントについて紹介します。主なポイントは次の7つです。

美容室の経営戦略のポイント
  • 顧客のニーズを考える
  • 集客方法を考える
  • 物品の販売に力を入れる
  • スタッフの技術力やサービスの質を上げる
  • リピーターを増やす施策をとる
  • 客単価の設定を高める
  • 経費を抑える

それぞれの詳しい内容について解説します。

顧客のニーズを考える

美容室においても顧客のニーズが存在し、そのニーズに応えることで事業が成り立ちます。経営する美容室の立地にはどのような地域性があり、どのような顧客がいるのか適切に分析する必要があるでしょう。

例えば、店舗周辺地域に住んでいる人の年齢や性別、収入などの傾向は、ニーズの違いが生まれる要素になります。店舗をどのような人に利用してもらいたいのか、また利用客にはどのようなサービスを提供すべきなのか、店舗と地域の特徴を元に分析しましょう。

また、付加価値の高い美容室を目指す発想も重要です。カットやカラーなどの定番といえる施術以外でも美容室へ行きたくなる理由を付加できれば、集客力アップやリピーター確保にもつなげられるでしょう。

集客方法を考える

美容室における集客のカギとして「利用後にまた来たいと思ってもらえるか」や「ターゲットにするお客様の立場に立っているか」などが挙げられます。

新規で美容室を開業する際は準備に手を取られ、集客が疎かになってしまうことも考えられます。そのため、オープン後の不測の事態にも対応できるように、いくつかの戦略を事前に用意しましょう。

まずはどのような客層をターゲットに営業活動や集客活動を行うのかを決定し、そのターゲットに合った媒体を活用しましょう。SNSやホームページ、チラシなどでの訴求はそれぞれ世代や性別などによって見込まれる効果が異なるため、ターゲットが決まっていないと誰にも響かない集客を行ってしまう可能性があります。

物品の販売に力を入れる

サロン専用のシャンプーやリンス、トリートメントなどの物品販売も売上をあげる方法の1つです。施術中の会話や服装などから、好みのメーカーや必要としていそうな物品のヒントを得て、顧客のニーズに合った商品の販売を検討しましょう。

例えば、カラーリングを希望される方には「カラー材が落ちづらいシャンプーやリンスはご興味ないですか」と、お客様の立場や気持ちになって接客し、物品購入につなげていくこともできるでしょう。

また、来店時のアンケートなども活用し、自然な形で宣伝するのもおすすめです。しつこい売り込みではなく、お客様の求めているサインが見られたら上手くセールスしてみてください。

スタッフの技術力やサービスの質を上げる

美容室の経営では、サービスの向上も重要です。たとえば、お客様に施術後のアンケートを実施し、サービス内容に対する評価をチェックしてみてください。評価の結果、改善点があれば積極的に見直しを図りましょう。

また、売上を増やすために店舗数を増やそうにも、オーナー1人だけでは限界があります。そのため、店舗展開には技術力だけでなく、経営力があって仕事を任せられる有能な人材の確保が大切です。

自分で試行錯誤しながら経営を行うのも大切ですが、それぞれの分野に長けた人材を育成することも重要といえます。

リピーターを増やす施策をとる

新規顧客の獲得には高い広告費を要することもあるため、集客のために割引クーポンなどを頻繁に出していては利益率が下がる可能性があります。

そこで重要となるのがリピーターを増やすための施策です。顧客のリピート率が高くなれば、新規顧客の獲得にかかる時間や手間の削減につながります。

具体的な施策として、カラーの回数券の発行により再来率アップさせる方法があります。有効期限と回数を決めて特別料金でカラーリングを提供すれば、顧客の再来日を促しやすくなるでしょう。

客単価の設定を高める

顧客1人が1回の購買によって支払う平均額を意味する「客単価」も、高められるように工夫しましょう。

例えば、客単価が10,000円で1ヶ月に50名が来店する店舗の月の売上は50万円です。もし、客単価をそのままに月商100万円を目指すなら、来店人数を2倍にする必要があり、営業時間の延長やスタッフの増加が必要になってしまうかもしれません。来店人数を増やすことも大切ですが、客単価の向上に力を入れることで、スタッフの負担を増やさずに売上を上げることにつながります。

ただし、客単価をアップするにはそれ相応の価値を提供する必要もあります。「技術力の高い美容師を雇用する」「品質の高いシャンプーを導入する」といったサービス面での工夫もあわせて実施しましょう。

経費を抑える

経営においては経費を可能な限り抑えることも大切です。そのためにも、美容室の売上や客数、客単価、リピート率、顧客別売上や固定費など、各経費を把握しておく必要があります。

また、資金のかけ方に偏りがないかもチェックしましょう。無駄な部分にお金をかけすぎていると、早々に赤字経営になってしまう可能性もあります。「ターゲットに対して無駄な商材やメニューはないか」や「宣伝広告費や家賃、光熱費が高すぎないか」といった点を見直すことで、経費を削減すべきポイントが見えてきます。

ただし、人件費の削減は慎重に判断すべきでしょう。スタッフの人数が減れば顧客の対応数も減り、売上もあわせて減少してしまう事が考えられるためです。スタッフ1人当たりの生産性を考慮し、売上目標に合わせて適切な人数を見出しましょう。

まとめ

今回は美容室やサロンの経営戦略を紹介し、必要なスキルや失敗例も解説しました。経営に失敗するケースには無茶な多店舗展開や広告宣伝がうまくいかないなど、経営のノウハウを知らずに独立している点が共通しています。

そのため、顧客ニーズを考えて集客や販売を促進し、客単価を上げながらもリピーターを獲得できるかが鍵です。「経営はやりながら学ぶ」と甘く見ずに、まずは美容師として現場で経験できることから学んでいきましょう。

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