競争の激しい飲食業界。その中で成功する方法や戦略というのは、店によって様々です。今回は、厳しい飲食業界で生き残るための基本的なマーケティングの知識や戦略を立てる際の具体例について紹介していきます。

飲食店を取り巻く状況

飲食店は競合の店舗が多いこともあり、開店してから2年以内に閉店する店舗が半数以上といわれています。また開業時にまとまった資金が必要なことや、利益率が低くかかったコストを回収するのに時間がかかるため、飲食店の経営は簡単ではないのです。

飲食業界で生き残るためには、まず経営戦略を立て、時には軌道修正をしながら利益を上げていく必要があります。飲食店の経営を成功させるために必要な要素や、基本的な戦略とは一体どんなものがあるのか、ご紹介していきます。

2020年の市場動向

「中小企業基盤整備機構」が2020年7月に実施した新型コロナウィルス感染症の中小・小規模企業影響調査アンケートの結果によると、新型コロナウィルスの影響で業績に大幅なマイナスがあった企業は4割となりました。

特に飲食・宿泊を含むサービス業では業績が大幅マイナスとなったことでの影響が大きく、極めて厳しい状況が続いています。今後の事業対策では「今後の対策が分からない」が32.7%と最も多い回答でしたが、その次には「新たな商品・サービスの開発」、「既存商品・サービスの提供方法見直し」が続き、厳しい状況の中でも新事業やサービス提供方法を見直そうとしている企業が多い傾向にあります。

参考:新型コロナウイルス感染症の中小・小規模企業影響調査(2020年7月)

飲食店の戦略の立て方

飲食店の戦略の立て方
  • 現状の課題点の分析をしよう
  • ゴールを設定しよう
  • いつまでに達成するかを決める
  • 売上額・利益額の目標を設定する
  • 来店者数と客単価の目標を設定する
  • 課題に対する打ち手を考えよう

競争の激しい飲食業界で生き残るために、自店の経営戦略を立ててみましょう。流れとしては、現状の課題点の把握をした上で現時点からのゴール(目標)を決めます。そして、そのゴールに到達するためにはどんな方法で課題を解決していくのかを考えていきましょう。

現状の課題点の分析をしよう

まずは、現時点でなぜ自店の売上が伸びていないのかを分析します。数値的な面で分析を行うことも重要ですが他にも注意すべき点は様々にあります。

例えばターゲットとして設定している顧客層と実際に来店している顧客にずれが生じていないかという点や、目標としている飲食店と自店を比較したときに改善できる点を第三者的な視点から割り出してみましょう。「他店と比較した場合、こんな課題があるのではないか」という仮説を立てることで、売上改善への糸口が見つかる可能性もあります。

ゴールを設定しよう

次に、売上の目標数値を設定します。ただ単に目標の売上金額を決めるだけではなく、目標を達成するための行動を起こしやすいよう細分化する必要があります。

例えば1日の客数や客単価などにまで落とし込むと、毎日の達成状況によって軌道修正するかどうかも早い段階で判断できます。ここで無理に高すぎる目標を設定すると、従業員に負担がかかり離職の原因となったり、顧客にも無理やり売上を上げようとする必死な雰囲気が伝わってしまう可能性もあります。毎日着実にクリアできる数値を設定することが重要です。

いつまでに達成するかを決める

設定した売上目標を「いつまでに」達成するかも決めておきましょう。具体的にどんな行動をすることで目標を達成するのかを考える事が大切になります。

売上改善を達成するための有効な方法として、新規客・リピート客を増やして「客数」を上げる、または値上げ・またはオーダー数を増やして「客単価」をアップする方法の2つがあります。客数を上げるか、客単価を上げために、具体的にどんなことをすればよいのかを考えてみましょう。

売上額・利益額の目標を設定する

売上目標を設定する時、過去実績や損益分岐点などのデータを参考にして決める方法があります。この場合、分析には一定期間分の来客数や売上などの記録が必要です。

また、「損益分岐点」を使って売上目標を決めることもできます。損益分岐点とは、売上高と費用の金額が等しくなることで損益がプラスでもマイナスでもなくなり、利益がゼロとなる状態のことをいいます。損益分岐点の計算式を応用し、目標となる利益額を求めた上でそれを達成するためにはどのくらいの売上が必要かを算出することができます。

来店者数と客単価の目標を設定する

設定した売上目標ををさらに分解し、来店者数と客単価に分けて日々の売上目標まで細分化してみましょう。客単価とは、来店した顧客1人が1回の利用で支払う金額のことです。

例えば、ランチの営業で売上20万円プラスを目標に設定したとすれば、20万円÷客単価(1000円)=月200名の来店が必要です。月200名を営業日の24日で割ると、1日8.3名の客入りがあれば達成できる計算となります。ランチとディナー両方営業している店であれはどちらも同じ要領で計算を行い、合計金額をプラスの売上目標として設定できます。

課題に対する打ち手を考えよう

日々の売上目標を決めたら、それをどう達成するかを考えていきます。客単価や客数をアップさせる具体的な方法について考えていきましょう。

来店者数を伸ばす

来客者数を増やすため、実際の集客方法はどんなものが有効なのでしょうか。新規顧客はチラシ・立て看板を出したりSNSで広告を出稿することで自店に興味を持ってもらい、来店を促す方法が良いでしょう。自店の業態やブランディング、料理のジャンルに興味のある人が来店してくれる可能性が高まります。

また、集客と言えば「新規顧客を獲得すること」に目が行きがちですが実はリピート客を増やすことも非常に重要です。顧客のリピート率を増やす方法は、お会計時にクーポンを発行して次回来店を促す方法が最も取り組みやすいでしょう。また、ポイントカード発行をする際にLINEアカウントやメールアドレスなどを登録してもらい、誕生付月の割引やキャンペーンなどのお知らせをすることでリピート率を上げることができます。

客単価を上げる

客単価とは、来店した顧客1人が1回の利用で支払う金額のことです。1人あたりが1回のお会計で利用する金額が高くなれば、もちろん売上は上がります。また客単価をあげた上でリピート顧客も増やすことができれば、売上が徐々に安定してくるため利益を出しやすくなります。

客単価アップを狙った施策を行う際は、顧客への配慮が最も重要です。客単価を高めようと、不必要にお客様に料理やドリンクをおすすめすると、顧客は会計時に「思ったよりも(会計金額が)高かった」という印象を抱き、リピートにつながりにくくなります。そのため、商品自体の単価を徐々に上げるというのも一つの方法でしょう。

来店者数を伸ばす3つの対策

来店者数を伸ばす3つの対策
  • トレンドを取り入れる
  • 旗や立て看板
  • QSC+Hを意識する

ここからは、来客数を増やすための具体的な3つの方法について説明します。

トレンドを取り入れる

世の中のニーズに応えることができ、また注目を集められることから飲食業界においてもトレンドを取り入れることは重要です。

例えば、現在増加し続けているデリバリーや、一定の金額を支払うことで毎月おトクにサービスが受けられるサブスクリプション制などです。サブスクリプション制とは定額制のことで、カフェなどで毎月2000円を支払えば、コーヒーが1日2杯まで無料等のサービスを提供している店もあります。そのほか、食品のロスを減らすためにフードシェアリングなどのサービスなどもあります。トレンドを調査し、ぜひ導入を検討してみてください。

旗や立て看板

カフェやラーメン店など、ランチでよく利用される店は道を通りかかった人が立て看板や旗を見て入店し集客につながるケースも多くあります。人通りの多いエリアに出店している店舗は、オリジナルの立て看板・旗の購入を検討するのもよいでしょう。

また近隣のエリアに住む人たちへ、自店の認知を高めるためにクーポン付きの紙のチラシなど配布するなど、アナログな方法も使い方によっては有効な手段となります。

QSC+Hを意識する

QSCとは、Quality(クオリティ)、Service(サービス)、Cleanliness(クレンリネス)のことです。この3つの要素が高いほど店舗の印象は良く、業績も向上します。逆にどれかが欠けていたり全体のレベルが低い場合、成功する飲食店とは言えません。このQSCに、Hospitality(ホスピタリティ)を加えたものが「QSC+H」です。ホスピタリティは実際の接客の品質ではなく、目に見えない店舗の考え方・価値観などのことを指します。

顧客の満足度を念頭に置いて日々店を運営することで、通常のサービス以上のことができるようになり、それが集客につながっていくのです。QSC+Hを高めることで顧客満足度も高めることができ、リピート率の向上や口コミでの新規顧客獲得にもつながります。

客単価を上げる3つの施策

客単価を上げる3つの施策
  • 付加価値をつける
  • 宴会メニューを用意する
  • 他業種とからめる

次に、客単価を上げるために具体的な方法を3つ紹介します。

付加価値をつける

普段のサービスに付加価値をつけると、自店独自の魅力が生まれ差別化を図ることができます。例えば、コーヒーショップでコーヒーを購入したとき、カップにメッセージやサインを書いてくれるスタッフがいるとします。同じコーヒーだとしてもメッセージがついていると顧客が良い体験をすることに繋がり、印象が良くなるでしょう。

このようなサービスだけではなく、店舗のコンセプトや料理などにも付加価値をつけることができます。例えば、こだわりの産地から直送された素材を使った料理を期間限定で販売したり、人気店・人気の調味料とコラボレーションした商品を店頭で販売したり、来店した顧客にお試しとして無料でプレゼントしたりすることも施策の一つとなるでしょう。

自店独自の魅力を生み出すことで付加価値となり、それが来店する理由となって集客効果もアップします。

宴会メニューを用意する

客単価を上げるためには、宴会メニューやコースメニューを提案することも有効な方法のひとつです。

例えば1人当たり大体3000円~を相場として設定すれば、客単価が安定しやすいため売上が上がる可能性が高くなります。また、コースの内容を店が自由に設定できるため、食材などのコスト・原価率を調整しやすくなるというメリットがあります。ディナーの時間帯だけではなく、ランチの時間帯でも昼のみやランチコースの打ち出しをしてみるのもおすすめです。

他業種とからめる

今、飲食店で少しずつ増えてきているのが、他業種とからめて経営を行う手法です。具体的な例を上げると、店で提供している料理をそのまま自宅でも楽しめる、というコンセプトで通信販売を行うというものです。冷凍やチルド配送できる商品に限られてしまいますが、外出自粛のムードが漂う中、お店の味がかんたんに自宅で楽しめることで話題になってきています。

このようにテイクアウトで購入する人や、自宅でのストック用に複数購入するパターンも増えているため、客単価が上がる可能性は高いでしょう。店独自で使用している調味料やスパイスなどがあれば、その販売を検討するのも十分なビジネスチャンスと言えるでしょう。

まとめ

今回は飲食業界で生き残っていくための戦略の立て方や、売上を伸ばすための来客数、客単価をアップさせる方法などを紹介してきました。短期間で経営を右肩上がりにすることは難しいかもしれませんが、まず経営の土台となる知識や基礎を理解し、今回ご紹介した方法を少しずつ実践してみましょう。

また、他店の成功事例や人気店などの経営者に話を聞くチャンスがあればアドバイスなども取り入れることで、現状をプラスに変えていくことができます。開業を希望する人は、知識をつけた上で事業計画・経営戦略を万全にした状態で準備を進めましょう。基本を身に付ける中で、大きなビジネスチャンスにも出会えるかもしれません。

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