小売業とは、仕入れてきた商品を消費者に直接販売するビジネスのこと。小売業に該当する業界としては、百貨店やスーパー、コンビニなどの幅広い商品を扱う業界から、アパレルショップや雑貨屋などの専門領域に特化した業界が挙げられます。

小売業の魅力は、オリジナリティあふれる品揃えを実現できることです。仕入れる商品を自分で選ぶことになるので、目利き力が高ければ、顧客の支持を集めて売上を大きく伸ばすことも可能です。

今回は小売店の開業・起業に必要な準備、知識についてご紹介していきます。

起業する際に必要な準備

小売店を開業・経営するために必要なこととしては、主に「店舗の立地エリアの選定」「内装整備・設備機材導入」「商品構成・仕入先の選定」「宣伝広告・プロモーション」などがあります。それぞれのポイントを順を追って紹介していきます。

立地選び

小売業は別名「土地産業」とも言われ、立地選びが集客数や売上を左右します。基本的には人口が多い地域、購買力のある地域などが好立地と呼ばれていますが、このような場所に出店する場合は賃料も高く、競合店も多いでしょう。そのため、はじめて小売業を出店する場合は、いきなり好立地の人気エリアへ出店するのはあまり現実的ではありません。

必ずしも人気エリアでなければ成功できないというわけではないので、自分が出したいお店にとっての好立地を見つければ良いのです。立地とターゲット顧客には密接な関係があり、立地が決まればターゲット顧客が決まります。まずは、自店のコンセプトとターゲット顧客を明確にしてから、自店にふさわしい立地を選定することが大切です。一度店舗の場所を選定したら、簡単に変更することは難しいため慎重に選定しましょう。

内装工事・設備導入

次に店舗の内装や、設備を導入するための工事を進めていきます。業者については、自身の開業する業種を得意としている内装業者を探し依頼するのが良いでしょう。ネットで探す方法もありますが、知人に紹介してもらえれば、工事の要望も伝えやすく安心です。

陳列棚などの設備は、専門業者で中古のものを揃えればコストを抑えることができます。オークションサイトを活用して購入するのも良いでしょう。

仕入れ先の選定、商品の選定

仕入れは小売店の売上を決める大事な要素です。自分の店のコンセプトを顧客に伝え、他店との差別化をアピールできる部分でもあります。

どのようなラインナップにするかを考える際には、同じ業界の人気店の品揃えを研究するとよいでしょう。人気店に実際に足を運び、良い要素は取り入れつつ、その店とは違う商品ラインナップをイメージしていきます。

その後は仕入れ先を探すことになりますが、誰もが利用できる仕入先では他店との差別化を図ることが難しくなります。そのため、最初は問屋街や卸売りセンターなどで探し始めたとしても、将来的には独自の仕入れ先を開拓していくことをおすすめします。

また、個人事業主が運営する小規模の小売店では、大量に仕入れる代わりに単価を安くする交渉が難しいため、できれば価格で競争をしないほうがよいでしょう。商品の品質や希少性にこだわり、付加価値の高いものを顧客に提供することがポイントとなります。

宣伝・プロモーション

開業が近づいてきたら、宣伝を行いましょう。店舗の存在を知ってもらうためには、オープン前の宣伝活動が重要になります。またオープン後の売上を伸ばすために、商品陳列の工夫や、商品をおすすめするPOP等も作成するとよいでしょう。

SNSを使ったプロモーションも主流になりつつあります。InstagramやX(旧Twitter)など、ターゲットとなる顧客がよく利用しているSNSを分析し、自店のアカウントを作成して情報発信するのもおすすめです。

個人経営と法人経営の違い

開業する場合、個人事業主として運営するか、法人化するかを選ぶ必要があります。もし会社が赤字となり負債を負った場合、法人の場合は起業者が出資した範囲での負債となり、個人事業主の場合は全ての負債を負うことになります。

どちらを選択するかは事業の売上規模から判断するとよいでしょう。まずは個人事業主としてスタートし、事業が拡大してきたら法人に変更するという方法もあります。

ここからは、法人と個人事業主両方のメリットとデメリットを紹介していきます。

個人経営の特徴

個人経営のメリットは、開業の手続きがとても簡単にできることです。基本的には、税務署に「開業届」を提出するだけで始めることができます。

また事業計画や戦略が、自分の中で明確になってさえいればよいので、事業を進めていく中で自分の好きなタイミングでやりたいように軌道修正することが可能です。会計や確定申告も、税理士などに頼らずに対応できることが多いでしょう。

個人経営のデメリットとしては、利益が大きくなると支払う税金が大きくなる点があります。個人事業主に課される所得税の税率は所得が大きくなるほど高くなるためです。

また個人で事業に失敗した場合は、全責任と負債を自分自身で抱えることになるため、最悪の場合は財産がなくなる可能性もあります。社会的な信用度が低いので、銀行などから融資を受けたい場合は苦労することがあるかもしれません。

法人経営の特徴

法人は、社会的信用度が高いため、銀行からの融資をしてもらいやすいのが特徴です。ビジネスの拡大を考えているのであれば、法人化するメリットは大きいでしょう。

また現代では、企業の正社員として安定的に働きたいという人が多いため、法人は個人事業主よりも人材採用がしやすくなります。また、法人の経営者が事業に失敗したとき、債務保証をしていない場合に限り、個人財産を守ることができます。

税制面では、役員報酬や経営者の生命保険料を部分的に会社の経費とすることで節税できる点もメリットに挙げられます。

デメリットは、法人設立する際に手続きが煩雑で、費用も25~30万円程度かかる点。また、会計処理が複雑なため税理士など専門家のサポートが必要になります。さらに、従業員を社会保険に必ず加入させなければならず、健康保険料や厚生年金保険料の費用も半分負担しなければなりません。

小売店の店舗経営のための戦略

小売店として事業を成功させるために、戦略を考える際の一般的な流れ・ポイントについて説明します。自身で掲げた経営理念を基に、外部環境と内部環境を分析して経営戦略を考え、それに沿って具体的な運営方法を決めていきましょう。

SWOT分析を実施する

自分の事業の外部・内部環境の両方を分析する方法に「SWOT分析」というものがあります。経営環境を判断するために内部的な「強み」「弱み」と外部的な「機会」「脅威」を分析し、これから自社が進んでいく方向を決めていきましょう。

外部環境と内部環境を考える上で注目するべき項目例は次のようなものがあります。

外部環境は景気動向や社会情勢とターゲットとする顧客の変化、仕入れ先のメーカーや物流業者の動向などです。内部環境は経営者自身の経営能力や従業員のやる気、商品力や資金力などのことです。分析を行う際には社内の人間だけではなく、仕入先や販売先、金融機関担当者などにもヒアリングを行うと、より客観的に分析できます。

これだけではイメージがしにくいため、小さなスーパーを例にSWOT分析をした例を挙げてみましょう。自社で分析を行う際の参考にしてみてください。

強み 知り合いの農家から直接仕入れた野菜を販売できる
弱み IT化に遅れを取っており店舗の事務効率が悪い
機会 近くに新しいマンションが建設され、顧客が増加する可能性がある
脅威 取引のある卸業者が廃業する可能性がある

ここで、さらに上記の4つの項目に対応した4つの戦略を考えることができます。

強みを成長機会に生かす戦略 新しいマンションへ新鮮な野菜を強調したチラシの配布をする
機会を生かすために弱みを補強する戦略 販売実績のデータが分析できる高機能なレジを導入する
強みを生かして脅威を切り抜ける戦略 新鮮な野菜の販売を強化し、卸業者の廃業に伴う売上の減少分をカバーする
弱みを踏まえて脅威の影響を抑える戦略 インターネットを活用して新たな卸売業者を開拓する

上記は一例に過ぎず、店舗ごとに存在する強みや弱み、機会と脅威の特徴に合わせて様々な戦略を考えることができます。 売上をさらに伸ばすためには、強み・機会の要素を戦略にしっかりと落とし込む必要があります。脅威や弱みの要素については、それが原因で経営が赤字にならないよう事前に対策を立てることが重要です。 SWOT分析については1度実施したら終わりということではなく、状況の変化を見逃さないよう定期的に分析を行うことが重要です。

「誰に何を売るのか」を決める

外部と内部環境の要素を分析したら、次は「誰の」「どのようなニーズを」「何によって満たすのか」という事業範囲の設定を行いましょう。メインのターゲット顧客層を明確にし、その顧客のニーズに合った店づくりを目指していきます。 例えば、若い女性向けのアパレルショップなどであれば「20代後半の一人暮らしをしている女性」等、生活様式も細かく想定します。この女性が実際に生活していると考えた場合、1着にそこまでのコストをかけることは難しいと想定されます。そこでトレンドを意識しつつも、価格がリーズナブルでおしゃれな服なら購入したいというニーズを見出します。ニーズに沿って自店で取り扱う商品も、トレンドを意識しつつ単価はターゲット層が購入しやすい価格設定にしてみる、などの工夫が必要になります。

店舗づくりに反映させる

次に、明確にしたターゲット層が喜ぶ店づくりや商品の選定、プロモーションを策定します。「どんな商品を、どのように、どんな価格で、いつ売るのか」などの視点をもって詳細に決めていきます。 先ほど例に上げたターゲット層「20代後半の一人暮らしをしている女性」に沿って考えてみると、下記のようになります。

どんな商品を トレンドを押さえつつも、リーズナブルな価格で手に入る洋服
どのように 店舗を構えた対面販売、またはwebショップなどでの通信販売
どんな価格で 一人暮らしの女性でも購入しやすい価格
いつ売るのか 仕事終わりも立ち寄れる21時までの営業や、ネットショップで24時間注文ができるようにする。

分析で終わるだけで満足してはいけません。メインのターゲット顧客層とそのニーズを明確にし、ニーズに応えるサービスを店舗で実現することが重要です。

売上を拡大させるためのマーケティング手法

ここからは、小売店に適切なマーケティング手法を紹介していきます。経営者にとってどうやって商品を購入してもらうか、どのようにして売上を上げるかを考えることは非常に重要な課題です。自社のビジネスの特性に合ったマーケティングを行い、魅力的な商品を揃えて売上アップを目指しましょう。

O2Oマーケティング

O2Oとは、Online to Offlineの略称です。オンライン(WebサイトやSNSアカウントなどのデジタルメディア)からオフラインの実店舗へ顧客を誘導することを言います。オンライン→オフラインの一方通行だけではなく、実店舗からオンラインへ誘導することも同じくO2Oと呼びます。 O2Oの例としては、メールマガジン・SNSで発信したキャンペーンやクーポン発行が挙げられます。SNSやメールマガジンを見た、ということを店頭で伝えると割引があったり、クーポンを発行したりして顧客へ来店を促します。デジタルメディアは低コストでターゲットに告知でき、効果測定もできるというメリットがあります。SNSを見に来てくれる人は多いが、集客にはあまり効果が出ていない場合はこのような方法を検討してみましょう。

リレーションシップマーケティング

顧客と良好な関係を長期的な視点で築き上げることで、売上の向上を目指すマーケティング方法です。具体的な方法としては、SNSを利用して顧客との関係性を強化したり、顧客の個人情報を登録してもらうようなきっかけを作り、誕生月のクーポンを配信したりといったものです。情報の配信では価値のあるコンテンツを提供するよう心がけ、見込み客が自社のファンとなってくれるような内容にしましょう。

ダイバーシティマーケティング

ターゲットとする顧客層の属性・価値観に合ったメッセージを発信することで共感を獲得し、商品を購入してもらいやすくする方法がダイバーシティマーケティングです。ダイバーシティとは「多様性」という意味です。ダイバーシティマーケティングとは、年齢や性別などの目に見える属性だけでなく、「ヘルシー志向」「トレンドに敏感」などのような属性も含まれています。 例えば、環境にやさしい原料を使った商品のみを取り扱うことで、「環境問題への関心が高い」という志向を持った消費者からの共感を得るケースが該当します。

まとめ

今回は小売店を経営する際の重要事項について紹介しました。最後に説明したマーケティングの手法を選定する際は、自店の課題を明確にすることが重要です。課題を解決するために、どの手法が効果的なのか、無理なく取り組める方法にはどんなものがあるのかを検討していく必要があります。

近年は技術革新のスピードが速く、顧客の購買モデルや適切なマーケティング方法もどんどん進化していきます。適切なマーケティングを行うために、日々さまざまな情報収集をしていきましょう。「誰に」「何を」「どうやって売るか」を真剣に考えるだけで、マーケティングの効果は変わってきます。

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