物流や販売・製造を行うあらゆる業界において、商品や資材などの在庫を切らさずかつ余らせないという、適正在庫の維持が大切です。在庫が正常に管理できていないと、コストや時間の無駄に繋がってしまう可能性があるためです。

では、在庫を適切に管理するにはどのようなポイントがあるのでしょうか。今回は、適正在庫の計算方法や維持の方法について、具体例も交えながら詳しく紹介します。

適正在庫とは

適正在庫とは、在庫を多すぎず少なすぎず、適切な量で維持している状態のことを指します。出荷量の月ごとの平均や在庫を補充する頻度、需要が変動する時期やその量などを把握して、常に最適に在庫を保っている状態であることが「適正在庫である」といえます。

例えば、在庫数が少ない場合は欠品という状況に陥りやすく、販売業界であれば販売機会を失うだけでなく、「あの店舗はよく商品が欠品している」と顧客からの信頼を失ってしまうことも考えられます。

一方で、常に在庫数が過剰にある場合、在庫を管理するための倉庫スペースの賃料や管理費が余分にかかってしまうことへの懸念や、倉庫管理がずさんな場合には在庫している商品や資材を破損してしまったり、型落ちや期限切れなどの不良在庫が発生してしまったりするリスクも考えられるでしょう。

このように、適正在庫であるかどうかは、企業自身の評判や財務状況にも大きな影響を与えます。

適正在庫の計算方法

自店舗の抱えている在庫が適正であるかどうかを見極めるには、どのような計算方法があるのでしょうか。実務的観点や経営的観点など、状況に応じた計算方法を紹介します。

安全在庫+サイクル在庫で求める方法

適正在庫を見極めるうえで多くの企業において基本とされている計算方法が、安全在庫とサイクル在庫をもとに算出する方法です。計算式は下記の通りです。

  • 「適正在庫数」=「安全在庫」+「サイクル在庫」

それぞれの言葉の意味や考え方、計算方法について見ていきましょう。

安全在庫

安全在庫とは、欠品を起こさないために最低限保っておくべき在庫のことを指します。通常在庫のほかに、需要の急な増減やリードタイムの変動にも対応できるようにするための最低限余剰に保持しておく在庫です。安全在庫の基本的な計算式は下記のようになります。

  • 「安全係数」×「使用料の標準偏差」× √(発注リードタイム+発注間隔)

安全係数とは、欠品をどのくらい許容するかによって以下のように数値が変わります。

欠品許容率 安全係数
1% 2.33
5% 1.65
10% 1.29
20% 0.85
30% 0.53

例えば、欠品許容率が1%である場合、100回のうち1回欠品することを許容するという意味になります。許容率がどの程度かを考え、それに対応する安全係数を計算式に当てはめます。

「使用料の標準偏差」とは、過去の出荷量や販売量の平均値を指します。また、発注リードタイムとは、商品を発注してから納品されるまでの日数を指し、発注間隔は1度の発注から次回の発注までの日数となります。

仮に、欠品許容率を5%(安全係数1.65)、使用料の標準偏差を10個、発注リードタイムが6日で発注間隔が10日として計算した場合、下記のようになります。

  • 1.65 × 10 × √(6+10) = 66

計算式によって、上記条件の場合の安全在庫は「66個」であるということがわかります。

サイクル在庫

サイクル在庫とは、一度の発注から次の発注までの間に消費された在庫量のうち半分の在庫量を指します。月に一度発注しているという場合には、30日の半分、15日間で消費された在庫量のことを指します。

先に説明したように、安全在庫とサイクル在庫を用いて適正在庫を把握する場合、「安全在庫+サイクル在庫」で計算できます。前項の安全在庫で算出した数とサイクル在庫を足して、適正在庫を求めましょう。

需要数を算出し、実務的観点から計算する方法

適正在庫を計算するもう一つの方法は、需要数から算出するやり方です。飲食店やアパレルなどの店舗で活用される方法で、「顧客を待たせることのないように需要に応えられる分の在庫数(需要数)を在庫として持つ」という観点から計算され、実務的な適正在庫の算出方法と言えます。

シンプルな計算方法なので在庫切れや在庫のムダを出すことがない一方、仮定した需要数よりも出数が少なければ過剰在庫につながることも考えられるため、比較的需要が安定している商品に向いている計算方法です。計算式は下記のようになります。

  • 「適正在庫数」=「一定期間の需要数」+「安全在庫数」

この計算式からわかるように、一定期間の需要数を知るためには過去のデータを取得しておくことが必要です。前年同時期や過去数カ月のデータを平均値として算出し、「一定期間の需要数」とします。新商品にこの計算方法を用いる場合には、一定期間の需要数の代わりに今後数カ月の販売計画数を採用するとよいでしょう。

これに、前述した安全在庫数を算出し足すことで需要数をベースにした適正在庫数がわかります。

回転率や回転日数を算出し、経営的観点で計算する方法

経営的な観点から適正在庫を算出する場合、在庫回転率や在庫回転日数を求める方法もあります。それぞれの考え方について詳しくは後述しますが、回転率が大きく、また回転日数の数値が低いほど、「短期間で在庫がよく入れ替わっている」ということになるため、経営的な効率がよいと判断できます。

在庫回転率

在庫回転率とは、「一定期間において在庫が入れ替わった回数」をあらわします。計算式は下記の通りとなります。

  • 「在庫回転率」=「年間または月間の売上原価」÷「平均在庫金額」
  • 「売上原価」=「期首在庫金額」+「仕入れ在庫金額」−「期末在庫金額」
  • 「平均在庫金額」=「(期首在庫金額+期末在庫金額)」÷2

例をあげると、「年間の売上原価」が200万円、「平均在庫金額」が20万円だった場合、「年間在庫回転率」は10で、「年間で在庫が入れ替わった回数は10回」ということになります。

在庫回転率の平均値は業界や製品・商品によって異なります。経済産業省が算出している業界別の在庫回転率は次の通りとなります。このデータを目安としてみてもよいでしょう。

  • 製造業:11.1回
  • 卸売業:19.9回
  • 小売業:11.4回

参考:4.中小企業の商品(製品)回転率|商工業実態基本調査|経済産業省

在庫回転日数

「在庫回転日数」とは、在庫が完全に入れ替わるのにかかった日数を指します。そのため、この数値が少なくなるほど製品がお金になるまでの期間が短いということになり、売上が上がることになります。在庫回転日数の計算方法は下記の通りです。

  • 「在庫回転日数」=「棚卸資産合計」÷「年間売上高」

交叉比率で計算する方法

交叉比率(交差比率)とは、どれほど儲かっているかを表し、交叉比率を基準にした適正在庫金額の算出方法もあります。

小売店などで活用される計算方法で、数値が高いほど利益を出すために効率がよい製品・商品ということになります。計算方法は下記の通りです。

  • 「交叉比率」=「在庫回転率」×「粗利益率」
  • 「粗利益率」=「粗利益」÷「売上高」

また、交叉比率から適正在庫金額を算出する方法は下記の通りです。

  • 「在庫回転率」=「交叉比率」÷「粗利益率」
  • 「適正在庫金額」=「売上目標」÷「在庫回転率」

一般的な交叉比率として下記のようなパターンがあるとされています。交叉比率が200%以上であれば、その商品は儲かっているという評価になります。

  • 薄利多売の場合:粗利率5% × 商品回転率40回転 = 交叉比率200%
  • 中利中売の場合:粗利率10% × 商品回転率20回転 = 交叉比率210%
  • 高利低売の場合:粗利率50% × 商品回転率4回転 = 交叉比率200%

参考:適正在庫とは?基本概念や計算方法、ツール選びのポイントを徹底解説

適正在庫を設定するうえで気をつけるポイント

さまざまな方法で適正在庫を算出できることが分かったところで、次は自社の適正在庫を設定するにあたり、注意すべきポイントを紹介します。

適正在庫を設定するうえで気をつけるポイント
  • 長期間の実績を元に適正在庫を考える
  • 定期的に適正在庫を見直す

長期間の実績を元に適正在庫を考える

在庫とは、年間のなかでも大きく変動します。季節ものの商品は特に時期によって在庫数が異なります。そのため、短期間ではなく、年間を通した長期間の在庫変動の数値実績を元にして適正在庫を考えるとよいでしょう。

定期的に適正在庫を見直す

適正在庫の数値が決まったら、しばらくの間はその数値を基準として運用を行っていき、もし在庫の過不足の頻度が少なくなってきたら、その数値を元にして運用を続けていきましょう。

反対に、設定した数値では在庫が安定せず、過剰在庫や不足が多くなってしまっている場合には、最初の設定から見直すべき箇所があるかもしれません。また、一定の期間においては適切な設定が出来ているという場合でも、在庫の動きはトレンドやニーズの変化による影響もうけるため、定期的な見直しを心がけましょう。

適正在庫を維持する方法

自社の適正在庫を把握したあと、それを維持していくにはいくつかのポイントがあります。最後に、自社の適正在庫を維持する方法を紹介します。

適正在庫を維持する方法
  • リードタイムを縮める
  • 発注方法を工夫する
  • 需要予測を行う
  • 適正在庫の考えを全社で統一する

リードタイムを縮める

リードタイムとは、材料を仕入れてから顧客に納品するまでのことを指します。「発注リードタイム」「製造リードタイム」「出荷リードタイム」に分けられ、これらが長いほど欠品が起きる可能性も高まります。販売機会を逃さないようにと在庫数を多く抱えれば別の問題にもつながるため、リードタイムで短縮できる部分があれば検討しましょう。

それぞれのリードタイムについても詳しく見ていきましょう。

発注リードタイム

発注リードタイムは、発注に関わる工程のことで、材料を発注してから工場などに納品されるまでにかかる日数を指します。主に小売業や卸売業といった、自社での組み立てや加工のない業種のなかで用いられ、「購買リードタイム」、「調達リードタイム」、「納入リードタイム」とも呼ばれます。

製造リードタイム

製造リードタイムとは、「生産リードタイム」とも呼ばれ、生産に着手してから生産が完了するまでにかかる日数を指します。製造リードタイムは短くなればなるほど生産日数が短縮され、製造途中の仕掛品や部品在庫の削減と納期の短縮に効果が見込めます。

出荷リードタイム

出荷リードタイムは、製品・商品を出荷してから顧客のもとに届くまでの日数を指します。発注リードタイムと同じく小売業や卸売業などで用いられます。出荷リードタイムは、輸送手段によって大きく差があり、海外や離島などの遠方の場合は船便や航空便となってしまうため、日数が多くかかることになります。

発注方法を工夫する

在庫を補充する際の発注方法を見直すことも適正在庫の維持につながることが考えられます。発注方式には主に、「定期発注方式」と「定量発注方式」の2種類があります。

定期発注方式

定期発注方式とは、「毎月1日」「毎週水曜日」などといった定期的なタイミングで発注する方式です。高単価のものや需要変動が大きなものを扱う場合に向いています。在庫量に影響されることなく発注を定期的に行えるため欠品を防ぐことができるメリットがある一方で、発注量を市場のニーズにあわせて予測しなければならないという手間があります。

定量発注方式

定量発注方式とは、在庫量の残数が一定の基準量を下回ったときに一定数を発注するという方式です。ここでいう一定の基準量のことを「発注点」と呼び、以下の式で求められます。

  • 「発注点」=「一日の平均出荷量」×「発注リードタイム」+「安全在庫」

定量発注方式では、発注量の調整が不要なので管理が容易であることがメリットです。一方で、発注リードタイムを考慮したうえでの在庫量をもとにして発注をかけなければ、製品・商品が届くまでに欠品が生じてしまう可能性もあるため注意が必要です。

需要予測を行う

需要予測を行う場合、過去の販売実績や最新のトレンド、顧客の動向などを分析して調整する必要があります。需要予測にAIやシステムを導入する企業もありますが、100%の精度になることは難しく、自社の前年同時期の需要や過去数カ月の実績を参考にするだけでなく、市場の動向やクライアントの意向などさまざまな情報から分析を行うとよいでしょう。

また、需要予測が外れて欠品や過剰在庫が生じてしまった場合に即座に対応できるような仕組みの構築も重要です。

適正在庫の考えを全社で統一する

適正在庫を維持していくときに失敗しやすい理由として、部門間、個人間の適正在庫に対する認識がばらばらになっているということがあげられます。認識の共有にはトップダウンの方式をとり、まず企業全体で適正在庫の目標を決め、その後、各部門にその目標を共有します。さらに部門内にとどまらず、横につながる部門同士でも目標を共有し、どのような方法が適正在庫の維持に適切であるかを徹底して統一することがポイントとなります。

全体的に間違いなく共有できる目標がはっきりできれば、あとは全社で目標に向かっていくだけなので、適切に適正在庫の運用を進めていくことができるでしょう。

在庫管理のコツは下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。

在庫管理のやり方を一から解説|必要な知識やコツも紹介

まとめ

今回は、適正在庫の求め方や、在庫を維持していくためのポイントについて紹介しました。

適正在庫は、実務的観点や経営的観点など、状況に応じて計算方法が異なるので、自社の業種に見合った計算方法を参考にしてみてください。

また、適正在庫を維持するうえでも、発注方法やリードタイムの見直しなど検討すべき点が多くあります。業種や在庫の扱いによっても適切な方法は異なりますので、まずは自社の在庫管理方法を踏まえて、どのような手段であれば自社の適正在庫管理を可能にできるかを考えてみましょう。

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